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第175話*

 稜而の車はアスファルトに吸いつくように走る。タイヤは太く、路面の凹凸を細かく拾うが、遥の身体に響く振動をかき消すほどの威力はない。遥は助手席でシートベルトを握り締めて、止まない刺激に耐え続けていた。 「んーっ、んーっ!」  胸の粒は揺さぶられ続け、後孔では内壁の膨らみを撫で続けられて、血液が炭酸水になって全身を駆け巡るような快感が広がっている。 「気持ちよかったら何度いってもいいけど、感じてる顔を俺以外の人に見せるようなミスがあったら、相応のペナルティは課させてもらうから覚悟して」  稜而は丁寧にハンドルを操りながら笑顔で遥に釘を刺した。 「ペナルティって、……はぁん! 何なのん?」 「例えば今の状態のまま、電車やバスに乗る、街を歩く、映画を観るなんていうのはどうかな?」 赤信号で静かに停止して、遥の顔をのぞき込んだ。 「全部、上級者コース、なのん……っ!」 「そう? 顔に出さずに刺激を楽しむ練習になるんじゃない?」 稜而はそう言いながらスマホを操作する。  遥はその瞬間に胸の粒を強くねじられ、内壁の膨らみを押されて、ぎゅんっと響く刺激に身体を跳ねあげた。 「ああ、やぁっ! いっちゃう! いくっ!」  慌てて両手で顔を覆い、熱水のように湧き上がる快感に全身を硬直させた。  くったりと身体から力が抜けても、熾火のように弱い刺激は続けられた。  涙目になりながらふと視線を感じて窓の外を見たら、隣で信号待ちをしているセダン車のドライバーと目が合ってしまった。意味もなく会釈して顔を逸らし、稜而に向かって訴える。 「やあん、気づかれてるかもかもなのん」 「そういう妄想もいいね。シートを倒したら? そのほうが身体も楽だと思うよ」 稜而に言われるままフラットになるまでシートを倒すと、左右からの視線は気にならなくなり、弱く刺激され続けている身体も休まる。  信号が青に変わり、車は低いエンジン音とともに走り始めた。  初めは達した余韻で全身がくすぐったかったが、身体が再び熱を持ち始めると弱い振動では物足りなくなって、遥は頼りない刺激から最大の刺激を得ようと身体の向きをいろいろ変える。 「ん、稜而……」 「どうしたの?」 「もっと、してほしいのん」 「いいよ。次の赤信号で停まったらね」 そういうときに限って青信号が連続し、遥は弱い振動に焦れて小さく腰を揺らめかせ、シャツの裾を掴んで下へ引っ張って耐えた。 「うずうずするのん……」 「わかってるとは思うけど、自分で刺激したらダメだよ。この車は車高が低いから、こうやって隣にバスなんか停まったら全部見下ろされる」 その言葉に隣を見れば、赤信号で停止した車の隣にバスがあり、耳にイヤホンを差し込んだブレザー姿の青年と目が合った。青年は遥の姿に僅かに目を見開いたように見えて、遥の身体を羞恥が貫く。 「ひゃあん! 遥ちゃんは何もしてませんのん!」 遥は顔を背けて強く目を閉じ、さらに強くシャツの裾を両手で引き下げ、ぴったりと膝を閉じる。 「そうそう。寝てるフリしてて。ほかの男に感じてる顔なんか見せたら…………なんでもない。遥に逃げられると困るから止めておこう」 稜而はくすくすと笑い、スマホを操作した。遥の身体には緩やかな刺激が加わる。胸の粒はゆっくりと押し潰され、ゆっくりと解放され、解放されるとしばらくは何の刺激もなく放置された。  体内ではローターが緩やかにうごめいては動作が止まり、遥が待ちきれずに両足をばたつかせる頃にまた緩やかにうごめく。  緩慢な動きに焦らされて、遥が催促しようと口を開いたとき、信号は青に変わって、車は走り出してしまった。 「ああっ、ねぇ、稜而。んんん、つらいのん……」 「どんなふうにつらいの?」 訊ねる声は診察室の医者そのもので、遥もつい素直に答える。 「あはーんって気持ちよくなりそうなところで刺激がなくなって、それを忘れそうになるとまた思い出させられるのん。上にも下にもいけないんだわー」 「なるほど、湯沸かしポットの保温効果みたいなものかな? 沸騰もせず、冷めることもせず」 道路標識とカーナビの指示を見比べながら稜而は笑い、遥は両足をばたつかせる。 「そんな例えはいらないのん! ああっ、お願いだから、早く遥ちゃんを仕留めて! 稜而! めちゃくちゃになぶって、突き上げて、わからなくして!」 「遥は焦らされるのにも弱いんだな。これからはじっくり料理する方法も覚えよう」 「遥ちゃんはスープじゃないのよー! 早く食べて! EAT ME!!!」  ヘッドレストの上で左右に頭を振っていたら、ようやく『目的地は左側です。音声案内を終了します』と声が聞こえて、遥はホッと息をついた。

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