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第179話

 けばけばしいピンク色のベッドの上で、腹這いになってスマホを操作する稜而の上に腹這いになり、遥は稜而の尻に自分の股間を擦り付けながら尻を振る。 「遥ちゃん、車に大きなこだわりはないのん。アクセルを踏んだら進んで、ブレーキを踏んだら止まって、ハンドルを回したほうへ向いてくれればいいのん。強いて言うならお値段と燃費かしらーん?」 遥の返事に、稜而は前髪を吹き上げた。 「片道二時間半、一六〇キロ。週末ごとに通って来てくれって言う俺は簡単だけど、遥は大変なんだから。しかも来年度は解剖実習と重なるだろう? 組むメンツと運によって何時に終わるかわからないぞ、あれ」 「前期の解剖実習は学籍番号順で四人ずつのグループなのん。マイ下僕の四月一日(わたぬき)くんがいるから、何とかなるんだわ」 「下僕……。そんなことになってたのか、あの 彼は」 「遥ちゃんが『あんぱん買ってこい』って言うと、買ってきてくれるのよー。遥ちゃんに命令されるのが好きなのん」 「そうかなぁ?」 「そうなのん。『遥のわがままを聞くのが好きなんだ。何でも言って』って言ってるんだわ」 「十代の恋愛は切ないな。かと言って四月一日くんの思い通りにされても困るけど」 前髪を吹き上げる稜而の肩に、遥は顎を乗せてスマホ画面を見る。  自動車メーカーのホームページがいくつも開かれていて、候補の車を表示させては、肩越しに遥に見せる。 「あ、荷物を積める車がいいのん。スポーツカーはラゲージスペースが狭すぎるのん。稜而のお尻と同じで、全然入らないのよー」 遥は腰を振って、稜而の尻に萎えた小さなものを擦りつけた。 「遥、挿れたくなったの? いいよ、してみる?」 軽い口調で笑う稜而に、遥は首を横に振る。 「稜而にお・も・て・な・し♡ してもらうことを覚えちゃったら、トップになる魅力は感じないんだわー。あ、でもでも稜而がどうしてもボトムになりたい気分だったら、応相談とは思ってるのん」 「俺は俺で今のほうがいい。遥が俺の下で啼いていると、してやったりと思う」 「うふーん! 我、鍋! 稜而は閉じる蓋なんだわー! いつだって蓋をして欲しいのーん」 「そう? じゃあ……」 稜而がスマホを放り出し、遥が舌なめずりをしたとき、ベッドの隅に飛んだスマホが鳴動した。 「あらーん、お電話なのん」 「あとで折り返すよ。俺に集中して」 稜而は仰向けになって遥の頬を両手で挟んだが、鳴動は何度も繰り返された。 「遥ちゃん、このせっかちさと押しの強さには思い当たる人がいるんだわ」 「俺もだけど……」 それでもなお稜而は遥を自分の胸に抱こうとしたが、遥はその腕をくぐり抜け、さっさと通話ボタンを押した。 「ごきげんようございますなのん! こぶたさんしております、妻ですのん!」 遥のはきはきした応対に、威勢のいい笑い声が聞こえてきた。 「やあ、遥ちゃん。ちょうどよかった。ステーションワゴンには興味ある? ボルボの右ハンドル、色は赤、オートマ、走行距離は三万キロ。書類の手数料と車検代でどうかな?」 「いいと思うんだわ! 請求書は稜而へお願いしますのん」 「よし、決まりだ」 「おーいえー!」 豪快な声は遥の耳の外までクリアに聞こえていて、稜而は前髪を吹き上げながらスマホを受け取った。 「達而(たつじ)院長の即断即決には相変わらず驚かされる」 「稜而はどうせ猪突猛進の単細胞な叔父だと思っているんだろう? 熟考はお前のお父さんに任せてある」 稜而の耳の外までクリアに聞こえてくる声に遥は笑い、送話口に向かって話した。 「玲而先生のパパとは思えないスピード感なんだわ」 「趣味やセンスは本人に任せてある。実家に近寄ってくれないのだけが残念だが、息災にしているようだから構わない」 豪快な笑い声が聞こえて、稜而と遥は肩を竦めながら笑った。

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