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第15話

 田園風景から一気に視界が開け、海が見えた。  海岸沿いに建つ白い建物を見て、遥は手を叩く。 「ひゅー! ご宿泊、ご休憩、サービスターイムッ! 日本名物、ラブホテルー!」  駐車場で車を降りた遥は、わざわざ一旦外へ出てホテルの看板を眺め、建物を見上げ、ウォークイン用の入口へ回り込む。  アジアンリゾートをイメージさせる内装で、遥は熱帯雨林のようにフェイクグリーンが垂れ下がるトンネルを歩きながら、ドキュメンタリー番組のように重々しいナレーションを呟く。 「ここは欲望に素直な人だけが集まる特別なホテル、性の聖域、人間の本能を司る宮殿です。どの部屋でも理性を忘れた人々が、生まれたままの姿で、本能に突き動かされるまま腰を振り、歓喜の声を上げているのです。やぎゅーひろしです。ひゃくまんえん、くいずはんたー!」 遥が握りこぶしを作ったタイミングで、ちょうどホテルのフロントに辿り着いた。  稜而が予約番号を告げると、すぐにルームキーと、何も入っていないバスケットを渡される。 「こちらのバスケットに、お好きなアメニティを入れて、お部屋へお持ちください」  案内されるまま、何種類もある中から、好みのシャンプーやトリートメント、ボディソープ、入浴剤、さらには化粧水やパックなども選んだ。 「遥ちゃんってば、アメニティハンター……。日本って、なんでこんなにサービスがいいの……」 バスケットいっぱいにアメニティを持ち、エレベーターに乗り込む。 「ポイントサービスのご案内、一〇〇ポイントで香水? ラーメンの出前、自家製ピザとパスタとパフェのルームサービス、コスプレ衣装の貸出! ……あーん、読み終わってない!」 最上階までエレベーターに乗っても、貼られていたインフォメーションの全部を読み終えることができず、片頬を上げて笑う稜而に少しだけ開ボタンを押し続けてもらった。 「部屋に辿り着くだけでも大冒険だな」 「うん。だって、こんなに大サービスなホテル、初めて!」  ダークブラウンを基調にした落ち着いた廊下を歩き、ライトがついている部屋の前で足を止める。 「この部屋ですよー! って、お知らせのライトがつくなんて、文明の利器を活用しすぎ。エジソン先生、泣いて喜んじゃう。……さて、この部屋の前のライトをご覧ください。長い廊下の中で、たった一箇所、このドアだけを照らしているんでーす。では、ここで問題です。なぜほかの部屋は照らさず、この部屋のドアだけを照らしているんでしょうか? すーぱーひとしくんでお答えいただきましょう!」 「ミステリー、ハンター?」 「あったりー! 似てた? 似てた?」 「似てたというか、ひとしくんで推測したというか」 稜而は苦笑してから、遥にルームキーを差し出した。 「自分で開ける?」 アンティーク調の鍵を差し出すと、遥は嬉しそうに受け取った。 「うん! ちゃーちゃらっちゃー、ちゃーららー、ちゃーちゃらっちゃー、ちゃーら、らーらーら!」 「今度はトレジャーハンターか」  開けたドアを押さえる腕をかいくぐり、遥は映画のテーマソングを小さく口ずさんで、架空の蔦や蜘蛛の巣、襲い来る極彩色の鳥などを避ける仕草で部屋へ足を踏み入れた。が、窓の向こうに海が見えると、一気に窓へ駆け寄った。 「うみはひろいなおおきいなーっ! ひゅー!」 青い空を映して光る海や、遠くできらめく水平線に、遥は指先を唇にあてては海に向かってキスを投げている。  サマーセーターが窓から射し込む光に透けて、遥の細いシルエットが露わになった。  稜而は遥を追って窓際へ近付き、背後から抱き締めた。 「俺、遥ハンターになってもいい?」 ミルクティ色の髪に頬を擦りつけながら訊くと、遥はしっかり頷いた。 「うん。オレも稜而ハンターになる……」  稜而は遥と唇を重ねながら、そっと荷物を取り上げ、荷物がなくなったスペースに回り込んで自分の身体を押し込んだ。  遥は稜而の腰に手を回し、さっそくベルトに手を掛ける。手探りでは外せなくて、口を離してバックルを覗き込み、歓声を上げる。 「ゴツいバックル! 骸骨ぅ!」 スターリングシルバーのバックルは、海賊の格好をした骸骨が透かし彫りになっていた。 「整形外科医らしくていいだろ?」 「そんな理由なの? Memento mori(メメント・モリ)じゃなくて?」 「整形外科は、患者のステルベン()にはあまり接しない」 笑っている遥を軽々と横抱きにして、大きな円形のベッドへ運ぶ。 「きゃー! お姫様抱っこー!」  遥は稜而の首に腕を絡め、鈴が転がるように笑った。  稜而は遥を抱いたまま、ふわりとベッドへ倒れ込み、仰向けになった遥の前髪を指先で掻き分けながら、王子様の笑顔を見せる。 「実は、もう我慢の限界だ」 「オレもーっ!」 「する?」 「する、する! レッツ・エンジョーイ!」 「したいこと、して欲しいことは遠慮なくどうぞ。痛いこと、嫌なこと、やめて欲しいことも、必ず言うこと。ただし、気持ちよくてダメ、ヤメテは無視させてもらう」 「うん。稜而もね! 約束っ!」 しるしのようにキスを交わし、稜而はニッコリ笑った。 「さっそく、遥ご自慢の下着姿を見せてもらおうか」 腰からそっとサマーセーターの内側へ手を入れると、遥は起き上がり、身体の前で両手をクロスして、元気よくサマーセーターを脱いだ。 「じゃーん! やっぱり初夜は白かなって思ってさー! 純白総レースのコルセット風キャミソール! 実はストレッチ素材で動きやすーい!」 肌が透ける白いレースのキャミソールは肌にぴたりと添っていて、正中にサテンリボンが編み上げられていた。 「そして……、よいしょっと」 スキニーをもぞもぞと脱ぐと、稜而に白くて丸い尻を向けた。 「見て見てーっ、お揃いの総レースTバックショーツ、サイドリボーン! しゃがむたびにお尻に食い込んできて、ドキドキしちゃったーん」 その様子を寝転がったまま見ていた稜而は、遥を自分の胸元に引き倒して抱き締めた。 「ごめん、もう無理……」 「え、何がー?」 「白くて丸い尻とか、尻とか、尻とか、堂々と楽しむ男らしさとか、尻とか、尻とか、透けてる乳首とか、後れ毛がかかる後頚部(うなじ)とか、胸鎖乳突筋(くびすじ)とか、尻とか、尻とか」  話す合間に遥の顔中へキスを大量に降らせた。 「やーん、稜而ってば、お尻フェチー! くすぐったーい!」 「ほら、いつまでも笑っていないで、真面目な顔をしろ」 頬へ突き上げるようなキスをして、遥が静かに目を伏せドレンチェリーのように赤い唇を差し出すと、稜而は食らいつくようなキスを仕掛けた。
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