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第16話*

「遥、遥……っ」 遥は、無邪気に甘える大型犬のように鼻先で顔を突き上げられ、首筋に舌を這わされて、目を丸くして天井を見ていた。 「ああ、遥」  耳を食まれ、舌で形を辿り、舌先をねじ込まれて、大音量のノイズを聞き、目を見開いたまま、ふるふるっと身体を震わせる。  稜而は、キャミソールの肩紐を外し、鎖骨を舌で辿る頃になって、ようやく遥の様子に気づいた。 「……どうした?」 「ワカンナイ」 「何が?」 「ニホンゴ、フランスゴ、エイゴ、ゼンブワカンナイ……」 「ん? 怖かったか? ……がっつきすぎたかな」  稜而が遥の身体から降りて添い寝をし、前髪を撫でてやっても、まだ遥は若草色の瞳を丸くしたまま天井を見ていた。 「遥? はーるーかっ?」 遥の顔を覗き込むと、遥はようやく若草色の目を動かして、稜而を見た。 「こういうとき、なんて言ったらいいのか、わかんなくなっちゃった……」 「何を言うって、決まり文句なんかないと思うけど?」 「エッチな動画、いっぱい観てるのに。全部忘れちゃった。何て言ったらいい?」 「何を言いたいのか……。怖い? 痛い? やめて欲しい?」  稜而の言葉に、遥は全部首を横に振った。 「稜而が舐めたり、触ったりすると、ふわふわ、じりじり、ちりちり、むずむず。何か言いたい気がするけど、言葉がわかんない」  遥は稜而を見ながら、パチパチと瞬きをする。  稜而はそっと遥の頬に手を当てる。 「もう一度、同じ感覚を味わいたいと思うか?」 「うん」 稜而は表情を緩め、ほんの少し考えると、再び遥の肩に顔を埋めた。 「そういうときは、『稜而』って言え」 「りょーじ?」 「そう。あとは声の抑揚で何となくわかる」  そう言うと、遥のキャミソールをぐっと押し下げ、小さな桜色の粒を口に含んだ。 「あっ、あーんっ、りょ、稜而ーーーっ!!!」 遥は稜而の頭を抱き、稜而の舌が蕾に触れるたびに身体を震わせ、声を上げた。 「あっ、ああっ、はあん、稜而っ、稜而っ! ンっ、んんっ、稜而ぃ……」  稜而は反対側のキャミソールの肩紐もずらして引き下げ、同じように色づきを口に含む。同時に唾液に濡れて紅色に光る、ぷっくりとした粒を指先でつまんで揺らした。 「ひゃあっ、ああ、ん。……ダメ、稜而。ダメ、ダメ」 「気持ちがいいからダメは受け付けない」 「いやーんっ! も、……稜而っ、稜而、ああ……。あああああっ!!!!!」  きゅっと稜而が粒を潰すようにつまんだ瞬間、遥は背を浮かせ、全身を大きく震わせた。 「え、遥?」 「はあっ、はあっ。……稜而ぃ」 ミルクティ色の巻き髪を顔の周りに散らし、ゆっくり瞬きしている遥の顔をのぞきこみ、稜而は片頬を上げる。 「遥の変態」 「へ?」 「乳首だけでいくなんて、遥は変態だ」 ぴんっと指先で胸の尖りをはじく。 「あんっ! ……オレ、変態?」  遥が不安そうに見上げるのに、稜而は真顔でしっかり頷いた。 「遥は変態。男の癖に、そんなにいきやすいなんてバレたら恥ずかしいから、黙っていた方がいいぞ。将来、飲み会で暴露話をする場面になっても、乳首でいきますなんて、絶対に言わないほうがいい。せいぜい『実は乳首も少し感じる』くらいにしておかないと、次の日からそのコミュニティで生きていけなくなる」 「ひえぇ。そうするー……」 「ま、ベッドの中の真実は、本人たちにしかわからないから。気持ちがいいなら、存分に味わって、何度でもいけばいいさ」  稜而はもう一度胸の粒を口に含むと、しつこく丹念に口の中で転がした。 「あんっ、もう……。やっ、稜而ーーーっ!」  絶頂に達した遥は目元を赤く染めたまま、ぷっと頬を膨らませると、稜而の肩を手で押して、仰向けに転がした。 「稜而だって、絶対、乳首感じるんだからっ! あーんって言っちゃうんだから!」  ぐいぐいとポロシャツを捲り上げてくるのに降参して、稜而はポロシャツを脱ぐ。  引き締まった身体があらわになると、遥はドレンチェリーのように赤い唇で、稜而の胸の色づいた部分を覆った。 「……っ!」  一瞬、稜而の腹筋に力が入ったが、それだけで、仔猫のように吸い付いている遥の髪を撫でながら大人しくしていた。 「あーんって、ならなーい!」  起き上がって、ぷっと頬を膨らませる。 「感じてはいるけど、声が出るほどではない。……これからセックスのたびに遥が開発してくれれば、いずれは声が出るようになるかも?」 「ふふーん。じゃあ、毎日セックスして、毎日舐めてあげる。稜而があーんって大きな声を出すまでするんだからっ!」  稜而はうんうんと頷きながら、腰に跨っている遥の脇腹へ両手を這わせ、乱れているキャミソールを脱がせた。遥の身体は透き通るように薄く白い肌の内側から、ほんのり薔薇色が透けて美しく、上質な磁器のように滑らかな肌触りだった。 「おいで、遥。抱っこ」 両手を広げて誘うと、遥は稜而の裸の胸に、素直にぱたんと倒れ込んできた。 「わあ、あったかーい。すべすべ。気持ちいい……」  稜而の胸に頬ずりする遥の背中をそっと抱いて、稜而は遥の身体から立ち上る華やかな甘い香りを嗅いだ。 「稜而って、日向ぼっこの匂いがする。この匂い、超、イケるー」 「そう?」  稜而は、うっとり目を閉じている遥の背中を両手で優しく撫でまわし、そのまま両手を下へ滑らせていった。

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