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第22話*-予備校編-

「遥、上になってみて」 耳元で囁かれて、遥はぺろりと唇を舐めた。 「稜而のこと、たまらなくしてあげるーん」  腰を跨ぎ、稜而に手伝ってもらいながら硬さを手にして、ゆっくり腰を沈めて行く。 「んー……、いっぱい入ってくるぅ……」 根元まで収めると、頬を紅潮させた遥は、はあっと悩まし気な息を吐いた。 「遥、動ける?」  遥は小さく頷いた。 「おーいえー! って、してあげる……」  始めこそぎこちなく腰を揺らしていたが、稜而が腰を掴んで角度を変えてやると、遥は顎を上げた。 「やぁん、気持ちいいー! はっ、あっ、そんないっぺんにしちゃダメ。いっちゃう……」 遥は稜而の腰の上を飛び跳ね、さらに稜而に左右の胸の粒をつままれて、ミルクティ色の巻き髪を振るっていた。 「あっ、やぁん! 稜而っ、稜而ーっ」 「っ、遥……っ。持って行かれるっ」 遥は快楽を求めて激しく腰を振り、「稜而ーっ」と叫ぶと同時に全身を硬直させ、体内にある稜而の身体の一部食い締めてから弛緩した。  稜而もすぐに放って身体を震わせ、遥を抱き止める。 「遥。明日から予備校だろ。準備しなくていいのか」 耳に口を押しあてて囁いた。 「あとでー……」 「バスの乗り方はわかるか? 気を付けて出掛けろよ」 ずるりと引き出される摩擦に小さく喘ぎ、肩にキスされて、遥は稜而から少し遅れて家を出た。  いつの間にか高くなっている空の下、遥は稜而の長袖カットソーを勝手に着て、ジーンズにコンバースを履いて、病院前のバス停からバスに乗り込んだ。 「遥ちゃん、稜而に乗るのも好きだけど、バスに乗るのも好きなのーん。おおがたばすーにのってます、きっぷをじゅんにわたしてね。……昔はきっと、いつもバスにジュンさんが乗ってたんだね。いいなぁ、オレもジュンっていう名前だったら切符を貰えたのに。名前変えちゃおうかな。遥ラファエルジュンですぅ! ……今日僕は見よう見まねでバスに乗った訳であり、切符ではなくSuicaをピッとセンサーにタッチしており、切符を使っていた時代を経験してみたいと思われ……、子供が食ってる途中でしょうがー! らーめんたべたいっ、ふーたりでたべたいっ、ねぎはいれてね、にんにくやまもりでも、ふたりでたべたらきにならない」 運転席のすぐ後ろに座り、口の中で小さく歌い、運転手がすれ違うバスの運転手に手を挙げて挨拶するときは、一緒になって小さく手を挙げ、ポニーテールに結った髪を小さく揺らしながら二十分ほどバスに乗って、降車口からぽんっと飛び出た。バス停のすぐ目の前に、古くて小さなビルがあり、遥は看板を見上げた。 「南都下(なんとか)予備校、到着! おーいえー! 何とか遥ちゃんを合格させてねーん」 ぴょいぴょいと階段を上り、ポニーテールをぶんぶん振って左右を見ていると、事務室の人が声を掛けてくれた。 「後期の帰国生クラスAは201教室よ」 「メルシーっ!」 ところどころPタイルの角が欠けた階段を上り、元気よくドアを開けた。 「ぐっもーにーん!」  しかし教室には誰もおらず、すぐ後ろから声がした。 「お前、バスの中で歌うなよな、恥ずかしい」 真っ赤なスパイクヘアとグレーのカラコン、黒のスキニーにタータンチェックのロングスカートを重ね穿きした上背のある男子が、遥を追い抜いて教室へ入っていく。 「いいじゃーん。人生楽しくなくっちゃ! オレ、遥ラファエルジュンなの。遥って呼んで! 初めましてーん。日本とフランスー!」 「建志(けんじ)。台湾と日本」 「にーはお、しぇいしぇい、うぉーあいにー! タケシ・カネシロ! 時の流れのように! 漢字教えてーん!」 「漢字圏で育ったから、日本の漢字も書けると思ってるんだろ? 『冲』と『沖』、こっち簡体字、こっち繁体字かつ日本語! ニスイかサンズイか、こういう微妙な違いをいちいち覚えなきゃならねぇんだぞ。漢字テストなんて大っ嫌いだ!」 黒板に書いて見せて、建志はリュックサックを机の上に放り投げた。

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