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第45話*
「ふう。いいお湯だったのーん」
遥は前髪をパイナップルの葉のように結って、額にできた小さなニキビに気をつけつつ、化粧水をパッティングしながら、バスルームから出てきた。
怪獣の足型のスリッパを履いた足が前後するたびに、バスローブの裾が翻って、稜而の目はちらりと動く。
「ホットココアとアイスココア、どっちがいい?」
「お腹痛くなるとやーんだから、ホットココアがいいです、稜而先生っ!」
言いながら遥はキッチンの食品棚の前へ行く。
「♪ はーるかちゃんが、はーるかちゃんが、はーるかちゃんが、みーつけた! ちいさいチョコ、ちいさいチョコ、ちいさいチョコ、みーつけた! ♪」
『♡はるかのおやつばこ♡ はるかいがいのひとがたべたらよなかにかんちょーされるからちゅうい! たべたらはみがき!』と書いてある箱からアルファベットチョコレートを大切そうに一粒だけ取り出して、るんたった、るんたったと回り込んで、キッチンカウンターの椅子に座った。
「お前、またチョコレートを食べながら、ココアを飲むつもりか!」
小鍋でココアパウダーを練り上げ、少しずつ牛乳を足してかき混ぜながら、稜而は大げさに溜息をつく。
「♪ チョーコレートをたべて、コーコアをのんで、たーべてものんでも、カカオがしーみーるー! ♪ 食べ物も飲み物もチョコレートだなんて、超、超、幸せなのーん! でも、ニキビができちゃってるから、一つだけで我慢なのよー」
「そんなに好きか?」
「だいすきー!」
できあがったココアを二つのマグカップに注いで、稜而も回り込んで遥の隣に座った。
「俺とどっちが好き?」
肩をぶつけ、触れた肩にどんどん体重を掛けながら訊くと、遥はくすぐったそうに笑った。
「だめなのよぅ、そういう意地悪な質問は! どっちも食べ物だけど、稜而は繰り返し食べられる世界で一人だけの大事な食べ物なの! チョコレートは一度食べたらなくなるけど、世界中に何個もあるの。別物なのよー!」
「まあまあ、いいだろう。飲んでよし」
稜而は多く入っている方のマグカップを遥へ差し出した。
「うふーん。ありがとなのーん」
隣の椅子に座った稜而の頬にキスをして、遥は両手で持ち上げたマグカップのふちに口をつけた。
「はあーん、おいしいのーん! 稜而が作るココアは幸せの味なのよー!」
「こうやって褒めて伸ばす方式で、少しずつ躾けられていくんだな」
「うふふ。遥ちゃんは、女王様なのよー! 仮面をつけて、網タイツとピンヒール履いて、ぴしーっ、ぴしーっ、女王様とお呼びーってして、稜而は遥ちゃんの足を舐めながら、おしおきしてくださいーってするのん」
「よく言うよ。いつも俺に意地悪してってお願いするくせに」
稜而はココアを飲みながら笑う。
「やーん。今から遥ちゃんが女王様よー! きーまったっ! さあ稜而、女王様の足を舐めなさーい」
遥がスリッパを脱いで、裸足の足を稜而の膝の上に乗せた。
「ふうん」
稜而は片頬を上げ、マグカップをテーブルに置くと、その細い足首をぐっと掴んだ。
「こちょこちょはいやーん!」
遥がくすくす笑いながら身をよじって防御する。稜而はそんな遥の態度を無視して、真面目な顔のまま椅子を下り、床に片膝をついて、遥のつま先にキスをした。
「あっ、りょ、りょうじ……」
稜而は何も言わず、舌を出すと足の親指を舐め、続けて口に含んだ。
「く、くすぐったいのよ……」
親指に舌を絡ませ、軽く歯を立て、また舌を這わせてしゃぶる。
「あ、や、やーん……。待って、待って。くすぐった……い……。はあんっ!」
ベッドの上であげるような声を出して、遥は両手で自分の口を塞ぎ、首を左右に大きく振った。
「どうした、遥?」
「えっちなのー。えっちな声が出ちゃったー。知らない扉が開いちゃうのーん!」
「開けておけ」
事もなげに言って、稜而は再び遥の足の指を口に含む。
「ひっ、ひゃっ、ひゃあっ……。やめて、あっ、ン……っ! ああんっ」
くすぐったさが官能に変化し、遥の身体に甘い痺れを引き起こす。遥はテーブルに縋りついて、声を上げた。
稜而は足の指を一本ずつすべて口に含み、舌を這わせると、足の裏へ舌を這わせ、踵をそっと甘噛みする。
「あああんっ、だめ、だめなの、稜而。稜而! あああああっ」
遥が身体を震わせると、稜而はようやく口を離した。
「いった?」
「知らないっ」
拗ねた声に、稜而は片頬を上げて、くるぶしへ唇を触れさせると、ふくらはぎ、太腿の内側へ舌を這わせていく。
「あ、ン……」
足の付け根まで辿ると、内側の皮膚の一番薄い場所を吸い上げた。
「痛っ」
遥が声を上げたときには、内出血が起きていた。
そのままトリミングされている肌の上へ唇を滑らせ、上向いているものをゆっくりと舐め上げる。
「ああ、稜而……」
はあっと悩まし気な息を吐いて、遥は天井を見上げる。
稜而は遥の高まりをゆっくり口に含み、唇の輪と緩めた舌で上下に扱いた。
「はあっ、はあっ、気持ち……いい……。稜而……」
さらに茎を手で握って扱き、先端の輪郭を尖らせた舌で辿って、小さな穴へ舌先を立てる。さらにぐるぐると笠の縁を辿っていると、口の中へさらさらとした液体が溢れてくる。
「んっ、んーっ、稜而、稜而、もう……」
身体を震わせる遥の腰を腕に抱きながら、稜而はさらに扱く手を強め、遥をしっかりと追い詰めた。
「出ちゃうっ、出ちゃうのっ、稜而!」
ぐりっと扱き上げた瞬間、遥は腰を跳ね上げた。
「あああああっ!」
稜而の口の中は澄んだプールの匂いに満たされ、パイナップルのような刺激のある味が広がった。
「もうっ、もうっ……。女王様になるの、気持ちよすぎるのん……」
遥は天井に向かって呟いた。
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