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第49話

「キラキラは遥ちゃんのハートを鷲掴みなのよー…….。♪くーもーり、がーらすのむっこうは、ダイヤモンド! ただのいしでも、ねだんがー、たかいのね! ……はるか、たんじょうせきは、ルビーなのん! しちがつなのか、はるかの、たんじょうび♪」 遥はふらふらと貴金属店のショーウィンドウへ吸い寄せられ、冷えたガラスにコツンと額をくっつけた。 「ダイヤの指輪が欲しい? それともルビーがいい?」 隣に立って、ショーウィンドウに飾られた商品を見ながら稜而が訊くと、遥は小さく首を傾げた。 「遥ちゃんはまだ子どもだから、ダイヤモンドの価値はよくわからないのん。お菓子のおまけのキラキラの指輪も素敵って思うし、クリスタルガラスや江戸切子やトンボ玉や万華鏡やテクマクマヤコンも素敵なのん」 「なるほど」 話す二人の横にある、宝飾店のドアの中へ吸い込まれていく人影を、二人は頭をずらして見送った。 「ミコ叔母さんと、ママンと、先生なのん……」  着物姿の二人はスーツ姿の理事長を従え、店員に恭しく迎えられて、臆することなく店の奥まで入って行った。 「一緒に中へ入ろう」 「やーん。遥ちゃん、お買い物はしないわ。自分で働いて、経済的自立を果たしたら、ごきげんようってお店に入るのん。それまでは……」 稜而は遥の肩を抱き、耳元へ口を寄せた。 「クリスマスプレゼントを、俺に買わせてやろうという考えはないのか?」 遥は一粒ダイヤや、メレダイヤの豪華な指輪を前に、ぶんぶんと首を振った。 「こんな高い指輪はダメよー! これは人生の一大事用よー!」 「そう? じゃあ、こういう指輪はプロポーズまでお預けにするけど。……でも、折角ドアを開けてくれているから、入ろう」 ドアマンがこちらへ微笑みかけていて、稜而が視線を合わせるとすぐに大きくドアを開けた。  クラシック音楽が流れる薄暗い店内で、スポットライトを浴びるジュエリーを前に、人々はさざめくように会話をし、手袋を嵌めた店員がビロードのトレイに商品を載せては、優雅な笑顔で接客している。  店の奥に階段があり、ミコ叔母さんと母親と理事長の姿は一階にはなくて、どうやらさらに高価な商品を扱う二階へ移動しているらしい。 「指輪が嫌なら、ネックレスは?」 遥の手を掴んで、稜而のほうが積極的に店の中を歩き回る。 「遥ちゃん、実はアクセサリーを身に着けるのは、得意じゃないのよ……」 身も蓋もないことを言う遥を、稜而は笑顔でいなす。 「慣れだよ」 「でもーん……」  眉尻を下げる遥に、稜而はまた耳打ちした。 「セックスするとき、全裸よりも、何かひとつアクセサリーがあるほうが、いやらしい感じがしていいと思わない?」 遥は小さな声で「いやーん」と呟きながら、こくこくと素直に頷いた。  ライトアップされたショーケースを見ながら移動していて、二人は同時に目を留め、足を止めた。 「『大天使ラファエルの翼』だって」 「キラキラでカッコイイのん……」  それは羽の一枚一枚まで細かく彫刻が施された銀色の片翼のペンダントで、二つで一対の翼になるデザインだった。翼の付け根にとても小さなダイヤモンドが一粒だけ埋め込まれていた。 「ペアもいいな」 稜而は躊躇うことなくショーケースへ近づき、店員に商品を指さして見せた。 「こちらはユニセックスのデザインになっております。ペアでつけていただくことを想定してお作りしておりますが、単体でつけていただいたときにも違和感なくお使い頂けるよう仕上げてございます」 ビロードのケースの上に一対の翼になるよう並べて差し出されたが、片翼でも成り立つデザインと、男性の身体にも見劣りしない程よい存在感があった。 「稜而、似合うのん」 ネクタイとワイシャツの胸元を緩め、店員に手伝われながら身につけた片翼のペンダントは、稜而の引き締まった身体と、王子様のような笑顔の両方によく似合った。 「ドラゴンと戦うファンタジーの王子様みたいなのよん」 遥も試着を促され、着物の襟にペンダントを重ねた。 「遥は、文句なしによく似合う」  ユニセックスなデザインが、遥の姿によく合っていて、稜而は即決した。 「このプラチナのものを、セットで。クリスマスプレゼント用に包んでください」 シルバー、ピンクゴールド、イエローゴールドなどの種類があることに気づいたのは、稜而がクレジットカードを革製のトレイに載せてからで、遥は戸惑った。 「シ、シルバーも同じ色をしていて、お値段は違うのよ?」 「俺はシルバーの経年変化を楽しむのも好きだけど、ずっと身につけるなら、より安定して硬度の高いプラチナのほうがいい。……というか、あまり値段ばかりを見ないでくれないか。遥に差し出すのに、値段でプレゼントを決めている訳じゃないんだ。一応の予算はあるけど、遥に受け取ってほしい、喜んでほしい、使ってほしいと思って、買っているんだからな」 「は、はい……なのん……。でもお返しできないのよ、こんな……」 「お返しは、俺のほう。毎日遥と一緒にいられて嬉しいから。これがお礼で、お返し」 クレジットカードの確認票へのサインと引き換えに、クリスマス仕様のデザインが施された紙袋を受け取ったとき、ミコ叔母さんと母親と理事長が、階段を降りてくる姿が見えた。  遥は稜而の手から紙袋を奪い取ると、更紗模様のサブバッグへ慌てて押し込む。 「遥、どうした?」 「親に追及されたくない。……大切なものだから、誰にも何も言われたくない」  早口に言う遥の言葉に、稜而は小さく頷き、遥の背中をそっと押して、一足早く店を出た。
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