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第53話
「『やっぱりヤダ』と言ってもいいと思うぞ、俺は」
ベッドに寝転がる稜而の隣で、遥は体育座りをしていた。
「んー……。別に嫌じゃない」
「その割には二階へ上がって来てから、風呂に入っている間も、ずっとそんな調子じゃないか」
「稜而と二人きりのときくらい、ローテンションでもいいだろ」
拗ねた声を出して、抱えている膝の上に顎をうずめた。
「構わないけど、ガウンを着てくれ。お前が悩んでるのに、言葉がまったく頭に入ってこない」
遥は頭に赤い三角の帽子をかぶり、白いファーで縁取られた胸下までの丈の短いボレロ、ローウェストのようやく尻を隠すだけの短いスカート、その下にはTの交点にうさぎのしっぽがついたTバックショーツ、ニーハイソックスという服装だった。
「悩むっていうか。ぐずりつつ、誘ってるんだけどー」
「どんなセックスを求めているんだ、お前は」
「この世の憂さを忘れるようなセックスがしたい」
遥はぽつんと呟くように言い、稜而はその額を揃えた指先でそっと叩いた。
「ばか。親の再婚でくらったダメージを、セックスなんかで解消できると思うなよ。今すぐ着替えて、嫌だって言ってこい。一人が嫌なら、俺も一緒に行ってやる」
「やだーん! プロポーズ大成功で気分が盛り上がって、お取込み中だったらどうするのーん! もっとトラウマになるのよー!」
「内線入れてから、少し時間を置いて行けばいいだろ。……親のセックスなんて具体的には考えたくないけど」
稜而は前髪を吹き上げ、仰向けになった。
「そうなのん。自分だってセックスで生まれてきてるし、稜而とセックスおーいえーってしてるんだけど、親のセックスって想像すると気が滅入るのん。でも、愛し合う二人はそういうこともするって知ってるから。あーもー、余計に気が滅入るのよー」
遥は稜而の胸の上へ倒れ込んだ。
「そこは考えないようにする、くらいの対策しか思いつかないな」
稜而は遥を抱き寄せ、遥の足の間へ自分の足を差し込んで、遥の身体を絡め取った。遥は稜而のパジャマへ頬を押し付けながら、もごもご話した。
「……遥ちゃん、頑張ってきたのん。自分がママンを支えるんだって。早く大人になって、お医者さんになって、ママンに楽をさせてあげるんだって。……渡辺先生だから、ママンと結婚していいですよって思ったし、ママンを幸せにしてくれる、大丈夫って信じてるけど。……本当の気持ちを言うと、ちょっとだけ、トンビにアブラゲなのん」
すんっと小さく洟を啜る音がして、稜而は遥の後頭部を撫でた。
「遥の気持ちはもっともだと思う。その点は配慮するように、父さんに言っておく」
「だめよー。遥ちゃん、嫌な子だって思われちゃうのは、嫌なのん! 可愛い、いい子でいたいのよー! あいあむ八方美人で何が悪いのさー! これが遥ちゃんの処世術なのよー!」
ぽかぽかと稜而の胸を叩く手を握り、その拳にキスをした。
「この四人の中で、お前だけが未成年で、経済的自立も果たしていない。どう見ても一番立場が弱い。家庭のゆがみは、その家庭の中の一番弱い存在にのしかかる。お前はもっとも配慮されなきゃいけない存在だ。こんな程度のことでお前を嫌な子だなんて思うなら、俺は自分の父親を軽蔑するし、お前を連れてこの家を出る」
「そんなのダメよぅ。せっかく結婚おめでとうムードなのに」
「だから、お前はそういう遠慮をするな。父さんに言いにくいことがあれば、俺が言う。かわりにママンに言いにくいことは、伝言を頼むかもしれないけど」
「おーいえー……。家族って、面倒くさいのん……」
「家族って面倒なものなんだ。それでも一緒にいるしかなくて我慢するか、あるいはあえて一緒にいたいと思うから、同じ屋根の下で暮らすんだ。……言っておくけど、俺とお前は兄弟として、やっぱり家族になるんだからな? 覚悟しろよ?」
その瞬間、遥は頬を薔薇色に輝かせて顔を上げた。
「兄弟! あーん、アニキぃ! 遥ちゃんってば、178*53*17の乳首責められるの大好きなネコちゃんですぅ! 包容力があってケツフェチなアニキ募集中ですぅ!」
ぴょんっと稜而の腰を跨ぎ、金粉をまき散らすような笑顔を見せた。
「急に元気になったな」
「稜而と一緒って思ったら、急に全部のことが大丈夫に思えたのん! あとは遥ちゃんの気持ちが、現実に追いつくのを待つだけ! 現実は変えられないから、気持ちが追いつく日が必ず来るのん! だったらその気持ちが追いつく日を今から先取りしておけばよくて、そうやって日常生活を過ごすうちに、気づいたら気持ちも順応してるのよ。すべては時間が解決してくれるのん! だから、楽しくおーいえーってしながら、毎日を過ごせばいいのよー!」
遥の笑顔を指先で優しく撫でると、稜而は息を吸いこみ、笑顔を作った。
「これからは家族として、一緒に楽しく過ごすか!」
「おーいえー! まずは年に一度のお楽しみ、クリスマスプレイっ! スタートーっ! ♪にゃーん、にゃーん、にゃにゃにゃー、にゃにゃにゃーん! にゃー、にゃー、にゃーにゃー、にゃーにゃーにゃーにゃにゃにゃーん!♪ あーん、稜而、あんたも好きねぇ! チョットだけよーん!」
遥はそっと自分の太ももを撫で上げ、短いスカートを捲りあげて、大げさにウィンクと投げキッスをして見せ、稜而は遥を腰の上に乗せたまま、腹を震わせて笑った。
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