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第63話

「ってことで、セクシーなおパンツが欲しいのよー。何度見返してもぎゅんぎゅんして、お手手の動きが捗っちゃうようなやつー」  昼下がりのランジェリーショップで、遥はお茶を飲みながら、レジ脇のテーブルにいた。  店主も暇そうで、足元に寝そべる三毛猫をタコ糸を括りつけた値札でじゃらして遊んでいる。 「それは白菜の好みだけどな。褌の男らしさが好きな奴もいれば、オープンバックに萌える奴もいれば、フルバックの布にできる皺にそそられる奴もいる。白菜はどんなのが好みだ?」 「キャベツはTバックが好きなんだって。お尻のふわふわが自由にしてる感じがいいって。あと、お尻の間に紐が食い込んでるのもちょっと萌えちゃうって言ってたのん」 「だったら、Tバック一択だろうな……」 そのとき、店のドアが開いて大きな段ボール箱が運び込まれてきた。 「毎度ぉ。こちらにサイン、お願いしまっす!」  差し出された伝票に店主がサインをし、遥は床に置かれた段ボールに飛びつく。 「開けていいっ?」 新入荷の商品が詰まった箱を、遥は開けて顔を突っ込む。 「あーん。シルクサテンのガウンもつやつやで素敵。でもこの間、襦袢を着たばっかりだからマンネリかしらん……。白はいっぱい持ってるし、黒もあるのん。金色? 銀色? あーん、ぞうさん! ぎゅんぎゅんしたら、ぞうさんのお鼻がぱおーんってなるやつね! 白鳥さんもあるのーん! 遥ちゃん、履いちゃおうかしらーん! 白鳥さんがぱおーん!」 遥は楽し気に段ボール箱から商品を取り出していく。 「♪まっかなひもパンっ、こかんにつーけてっ、ねがいはひーとつっ、あおいブーラ、きいろいニーハイ、はいてるあしーでー、ピンクのほほの、はるかちゃーん、ふーかせーみどりのーエロスのかぜをー、……ゴー! ゴゴー!」  遥が取り出す商品を、店主は受け取って順番に伝票と照らし合わせた。 「開梱の手間が省ける」  遥はダンボール箱の中を掘り進むものの、どの商品も決定打に欠けて、首を傾げていたが、一番底にあった商品を見てにっこりした。 「このカリビアンブルー、すってきー! 肌を綺麗な色に見せそうじゃない? ほら、遥ちゃんの肌の色によく似合うのーん! Tバックで、後ろにちょうちょ型のレースがついてて、前はオーガンジーで透けてて、エロくて可愛いのーん! 遥ちゃん、お目が高い! これにするわーん! あ、セットの透け透けベビードールもくださいなのん!」 「毎度あり。でも、素材がシルクだから、それなりの値段するけど。いいのか」 「『遥が一番気に入ったものを買っておいで』って、キャベツが軍資金くれたのーん!」 紙幣を見せて、うししししと遥は笑った。 「若いうちから甘やかされて、ロクな大人にならないぞ」 「すでにセックス大好きな、ロクでもないガキだから、だいじょーぶなのん!」  黒い紙袋に包んでもらって、遥はるんたった、るんたったとすえた臭いのする街を歩き、電車の中では世界史のテキストを通読して、電車を降りるとまたるんたった、るんたったと坂を上って帰宅した。  それからは真面目に髪を結び、実用一点張りのウェリントンフレームのメガネをかけて、苦手な国語に取り組み、半身浴をしながら一日遅れの新聞を読み、顔にパックをしつつ気分転換に数学の問題集を解き、化学の問題集も解いてから、長葱を斜め切りに、白菜を削ぎ切りにして、フードプロセッサーで鶏団子のタネを作り、鍋の準備をして、また稜而が帰ってくるまで世界史のテキストを読んだ。 「ただいま帰りました」  稜而に頬にキスをされて、遥は我に返った。 「おかえりなさい」 「受験勉強の進み具合はどう?」 「やっぱり国語と世界史が難敵なのん。特に歴史は、遥ちゃんが習った歴史と全然違うのよー。遥ちゃんが習った歴史はヨーロッパが中心で、日本なんて極東の国は近代まで出てこないんだから!」 両手を腰にあて、稜而を真似て前髪をふうっと吹き上げ、遥は夕食の準備に取り掛かった。 「かといってほかの社会科科目は出題者の好みが反映されて、マニアックな問題が出やすいしなぁ」 「あーん、いいのよ。世界史は、まだ持ってる知識が使えるのん。……だめよぅ、火傷しちゃう」 沸騰し始めた鍋の世話をする遥を、稜而が背後から抱き締めた。 「下着、気に入ったのはあった?」 「あふん。あったのよー! あとでのお楽しみなのん!」 「待ちきれない」 「ダメなのよー、腹が減ってはセックスできぬのよ!」 稜而を椅子に座らせ、鶏団子と長葱と白菜の白湯鍋を食べる。  その間も稜而は待ち切れない様子で、遥の唇や、片翼のペンダントの胸元を見ていた。 「稜而、エッチなこと考えてるでしょ?」 「ああ」 素直に認めて笑い、遥も笑って怪獣の足型スリッパを脱ぐと、爪先で稜而の足を辿り、膝から太腿を経て、脚の間の膨らみに辿り着いて、足の裏でその膨らみを捏ねるように撫でた。 稜而は箸を持ったまま、目を眇めて俯いた。 「ダメよ、稜而。ちゃんとご飯を食べなさいなのん」  稜而の昂りを足の裏で撫で上げながら、遥は妖艶に微笑んで、長葱の中心をつるりと食べてみせる。 「ふふ、美味しい……」  そのとき、稜而は椅子を引いて立ち上がった。 「もうダメだ。残りは夜食!」 鍋に蓋をして、テーブルをまわりこみ、遥の二の腕を掴んで立たせた。 「撮影会、開始!」

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