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第65話*

「お前、なぁ……」 稜而は大きく息をついた。 「エッチで気持ちいいでしょ?」  遥は口の中でキスの音をたてながら、ぱちんとウィンクして見せる。 「ああ、とっても!」  稜而は遥をベッドの上に仰向けに寝かせると、首筋から鎖骨、胸骨と舌を這わせ、ベビードールのリボンを遥に見せつけるようにしながら、前歯で噛んで引っ張りほどいた。 「遥……」  稜而は胸の粒へ口を寄せ、小鳥が木の実を啄むように刺激しながら、遥の身体からベビードールを脱がせ、自分の身体に残っていた衣類も取り去った。  くるりと遥の身体を反転させると、うなじに唇を押しつけ、そのまま背骨の凹凸を一つずつ、ゆっくりと辿る。 「くすぐったいのん」 遥は両足を小さくばたつかせて笑ったが、稜而はさらに下まで唇で辿った。  ショーツに縫いつけられたレースの蝶に口づけをし、そのまま口に咥えて遥の身体から取り去る。  全裸になった遥の肌はほんのり上気していて、稜而は再びシャッターを切った。  寝室にシャッター音が響くたび、遥の身体は小さく震える。 「撮られると、感じる?」 遥は手繰り寄せた枕に顔を埋めたまま笑い、頷いた。 「見事な変態だな」 「稜而だけの秘密なのん!」 「口止め料をもらおう」  稜而は遥の秘所へローションを塗り込め、自身の興奮を薄膜で覆うと、遥のふわふわとした白い尻たぶを撫でながら、そっとなかへ侵入した。  根元までしっかり収め、遥の緊張が解けてから、ゆっくりと抜き差しを楽しみ、遥が一際甘い声を上げ始めたとき、カメラを構えた。  薄膜に覆われた怒張が、ふわふわした尻の狭間、濃い紅色をした窄まりに吸い込まれていく様子を、しっかりとカメラで捉えた。 「見て、遥」 抱えた枕へ頬を押しつけている遥の眼前にモニター画面を差し出すと、遥の内壁は激しく蠢いた。 「ああん、愛しあってるのん……」 「愛しあってるときの、遥の顔をもっと撮りたい」 稜而は左右の足を投げ出してヘッドボードに寄り掛かり、遥は稜而の腰を跨いで、硬い楔の上へゆっくりと腰を下ろした。 「あっ、んんっ! いっぱい入ってくる……」 苦悶に似た表情も、魚のように喘ぐ様子も、自ら快楽を求めて身体を揺する姿も、稜而は全部カメラに収めた。 「あんっ、あんっ、いきたくなってきちゃった……」 「いいよ。いくところも撮ってやる」 カメラを構え、遥の赤らむ顔に焦点を合わせる。 「あっ、あっあっ、んーっ! 稜而っ、稜而ぃ! いくっ、いくっ、はああああんっ!」 遥のタイミングに合わせて立て続けにシャッターを切り、裸体をさらし、後孔に稜而を咥え込みながら、強い快感に泣きそうな顔をしている遥をメモリーに残した。 「最後は稜而を撮ってあげる」  遥がデジタル一眼レフカメラを取り上げて、稜而は枕へ頭を落とした。 「マジか……」  稜而は苦笑したが抵抗せず、遥の腰を両手で掴んで、己の欲望のままに突き上げた。 「ああ、遥……、遥…………っ」 目を閉じ、触覚だけに意識を集中して、遥を感じる。  すぐに波は訪れて、稜而は遥を穿ちながら達した。 「くっ! は、あっ! 遥っ! 遥っ!」  遥が稜而に見せたモニター画面には、きつく目を閉じ、眉間に皺を寄せ、顔を赤くして喘ぐ稜而の姿があった。  二人はベッドの中で肩を寄せ合い、モニター画面で撮影した写真を見返してた。 「やーん。変な顔してるのよー!」 「お互い様だろ」 「稜而があーんってなってる写真、遥ちゃんも欲しいのん」 「俺が当直のときに使う?」 「携帯を抱き締めながら、一人であーんってしちゃうわーん」 「抱き締めるだけじゃなく、キスもして」 「ふふっ、キスもしちゃうのん」 「一人でするときの写真も欲しいな。撮って送って」 「稜而もくれるなら、あげるのん」 「いいよ。当直が暇なときは撮って送る」 「約束っ!」 キスする二人の姿もカメラに収め、その写真も見返した。 「遥、こういう二人を何と呼ぶか知ってるか?」 「何て呼ぶのん?」 「バカップル」  稜而が横目で遥を見てニヤリと笑うと、遥は笑顔をはじけさせ、稜而の首に腕を絡めた。 「あーん! バカップル、素敵なのよー! 稜而と遥ちゃんは、これからもずっとずっと、えっちっちーなバカップルなのーん!」  頬に頬を押しつけて、それから稜而の顔じゅうにキスの雨を降らせて笑った。  六月下旬、しっとりとした雨が降る様子を窓の向こうに見ながら、稜而と遥は床にスーツケースを広げて荷造りに勤しんでいた。 「ねぇ、稜而。このお菓子、稜而のスーツケースに入る?」 スーパーマーケットやコンビニエンスストアで売られている、ごく普通のお菓子をどっさり抱え、遥は稜而のところへやってきた。 「なんだ、これ?」 「従兄のレオに渡すお土産なのん。レオはパティシエで、日本のスナック菓子が大好きなのよー」 「なるほど。いいよ、一番大きなサイズのスーツケースにしよう」 「ありがとなのん。遥ちゃんのスーツケースは、入浴剤でいっぱいなのよ……」 「入浴剤?」 「フランスは硬水で、お肌がかさかさになるのん。しっとりする日本の入浴剤は、お土産に持って行くと喜ばれるのよ」 「なるほど。……って、あのスーツケースの半分を埋めてるのは、全部入浴剤なのか?」  遥のメタリックレッドのスーツケースの半分に詰め込まれているビニール袋を見やった。 「あーん、そうなのよー! 今回は会う友達がたくさんいるのん! スケジュールいっぱいなのよー!」 「そんなに大量の粉末を持ち歩いたら、チェックされそうだな……」 「やーん! 別室へご案内で、『本当のことを言え!』とか、『見逃してほしかったら言うことを聞け!』って言われて、デスクの上であーんってされちゃうんだわー! 稜而の目の前でされたら、ネトラレよー!」 遥は両手を拳にして顎の下にあてると、ミルクティ色の巻き髪を振って、楽しそうに笑った。

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