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第70話*

「『なかなか上手い。日本語は、フランス語に似ているんだな』って」 遥が祖父の言葉を訳して笑う。 「え。俺、最初から日本語で歌えばよかった……?」 稜而は肩を落として力なく笑いながら、祖父と握手を交わした。 「結構上手だったよ。ほら、ほかの皆は『上手かった』『聞き取れたわ』『このままフランスに住めば?』って」 遥が訳してくれる言葉に頷き、稜而は会釈を返した。 「ありがとう。同情でも慰めでも、努力が報われて嬉しい」  稜而の言葉を遥が訳すと、皆は苦笑いして、その雰囲気をぶち破るようにレオがグラスを掲げた。 「あなたの健康に、カンパーイ! Sante!」 カンパイ、カンパーイとそれぞれにグラスを掲げて賑やかになり、遥はまたギターをかき鳴らす。  持ち寄った料理やお菓子を食べて和やかに過ごし、祖父は夜が更ける前に立ち上がると、レオに向かって何かを言った。 「へいへいへーい、カエルが鳴くから帰りましょー! 口うるさいじーさんと二人暮らしなんて、ホントにいやんなっちゃうわーん! 夜風に吹かれるだけでも、風邪ひいてくたばっちまうんじゃないかって、期待しちゃうのーん!」 レオは自分のジャケットを拾い上げると、そっと祖父の背中に掛けてやり、祖父も黙ってそれを受け入れて、二人は街灯が光る石畳へ足を踏み出した。 「ラフィ、また明日! 愛してるわーん!」 レオのジャケットを羽織った祖父の隣を、後ろ向きに歩きながら手を振って、レオは帰って行った。 「また明日?」  まだ二階で盛り上がっている大人たちの間を抜け、屋根裏部屋へ向けて階段を上がる。先に階段を上る遥の尻が目の前に来て、稜而は自分の目を楽しませ、顔を埋めたい衝動を我慢しながら、一緒に階段を上がった。 「明日は遥ちゃんがベビーシッターをしていたおウチへ行くのん。そのおウチは、遥ちゃんがベビーシッターをする前に、レオがベビーシッターをしてたのん。遥ちゃんは、レオに紹介されてお仕事してたのよー。……どうしたのん、稜而?」 階段を上りきった遥が、若草色の瞳で稜而の顔を覗き込んだ。 「ん? ごめん。目の前に遥の尻があると、ほかのことが頭に入らなくて」  正直に答えると、遥は両手を腰にあて、尻を突き出して左右に振った。 「♪へやへのかいだん、のーぼるー、はるかのしり、みりょくてきっよー! しりフェチりょうじはきーっとー、よろこんでくれると、しんじてたのー!♪ あーん、いっぱい触って欲しいのよー!」 「よし、触らせてもらおう」 「おーいえー! シャワーを浴びて、ベッドの中でお待ちくださいませなのよー!」 稜而が言われた通りにしていると、バスローブをまとい、頭をバスタオルで巻いた遥が、部屋の中へ入って来た。 「♪ふるいベッドのうえーにー、かくれてー、りょうじがねてるのー! クールなイケメンのしたーのー、あそこはホットホットなーのー♪」 歌いながらベッドの端に座ると、それだけで古いベッドは軋んだ音を立てた。  稜而は遥の肩へ手を伸ばし、そっと引っ張って自分の腕の中へ抱いた。 「このベッド、軋むな」 「ちっちゃい頃、トランポリン遊びをしすぎたのん。でも頑丈よー。思春期の遥ちゃんが枕相手に腰振っても壊れなかったのん」 「このベッドの上で、一人で腰を振ってた?」 稜而が耳の端に唇を触れさせながら問うと、遥は首を竦めて笑いながら頷いた。 「まだ見ぬキャベツを思って、あーんってしてたわー」 「気持ちよかった?」 「もちろんよー。でも、キャベツと一緒にする気持ちよさには敵わないのん。……あったかくて、心がほわわーんってして、最高なのん」 遥はとろみを帯びた声で言うと、稜而の脚に自分の足を絡める。 「したくなってきた?」  稜而も熱っぽい声で訊ねながら、絡む脚から上へ手のひらを滑らせ、バスローブの内側にある遥のふわふわとした尻を撫でた。 「もちろんなのん。ねぇ……、遥ちゃんをあーんってさせて」 「でもまだ二階にはたくさんの人がいるぞ? 声、我慢できるか?」 「はぁん……。そんなの燃えちゃうのん……」 「絶対に声を出すなよ」 稜而は念を押して、遥の唇に自分の唇を重ねた。  ドレンチェリーのように赤い下唇を吸って、舌先でくすぐると、遥も稜而の上唇を吸って同じように舌を這わせる。ぞくぞくと沸き上がる快感に耐えるために、二人はきつく抱き合った。 「んっ、ふ……っ」  遥の息が上がってくるのを、稜而は口を離してたしなめる。 「声を出すな」 遥が頷くと、改めて口を合わせ、舌を差し入れた。遥の下が積極的に絡んできて、滑らかな感触を楽しみながら、稜而は遥の髪を撫で、耳の形を指先で辿り、そのまま首筋、鎖骨、胸骨と形を確かめるように辿って、バスローブの合わせ目へ手を差し込んだ。  痩せたあばらの浮く胸へ手のひらを滑らせ、指先で小さな粒を探る。 「んっ、んっ」 絡めた舌を通して稜而に声を吸われながら、遥は身体を震わせた。

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