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第71話*

 稜而の指が遥の胸の粒をつまみ、そっとねじる。 「んんっ!」 遥はさすがに呼吸が苦しくなって、口を外して喘いだ。  稜而は遥の口との間に光る糸を舌で絡め取り、ドレンチェリーのように赤い唇から、木の実のようにぷっくり膨らんだ胸の粒へターゲットを変更して、一息に口へ含む。 「っ!」 遥は、いつの間にか髪から外れて顔の周りに広がっていたバスタオルへ顔を埋め、濡れた髪が頬に触れる冷たさで理性をつなぎとめて、声をこらえた。  口内に含まれて、舌先で転がされて、甘い痺れが全身に広がる。  目を開けて胸元を見れば、目を閉じて胸に唇を押し付けている稜而の顔があった。口の中で舌を動かすたび、微かに喉が動く。 「ん?」  遥の視線に気付いたのか、少し長い前髪の隙間から稜而の目が覗いた。 「同じところばかりで、飽きた?」 片頬を上げると、濡れている遥の髪をそっと掻き上げ、露わになった遥の頬を手で撫でる。 「ちゃんと反対側もしてやるよ」 「あんっ、気持ちいい……っ」 囁くような声だったが、稜而は遥の唇に人差し指をあてた。 「声は出さない約束」  遥は口を開けて、その人差し指に舌を絡め、口の中へ取り込んだ。稜而の指が動いて、遥の舌をくすぐり、遥はちょっと笑ってから、稜而の指を根元から先端に向けて舐め、先端を舌先でくすぐって、頭を小さく前後させた。  反対側の胸の粒を舐めていた稜而が、くすくす笑って顔を上げた。 「想像しちまうだろ」 「させてるのん」 「実際にさせるぞ?」 「望むところなのん」 稜而は逆さまに寝て、遥の口許へローライズのボクサーブリーフを履いた腰を突き出す。同時に稜而の目の前には、バスローブで覆われた腰があって、掻き分けるとじかに遥の肌色があった。 「ずいぶん膨らんでる」 「稜而のも、カチカチなのん……。脱いで」 互いの主張を手や口で刺激しながら、ポーチの中身を二人で分け合い、遥は下着を脱がせて露わになった稜而の昂りを薄膜でするすると覆う。  稜而は透明な粘液を指につけると、白くてふわふわした尻たぶにキスを繰り返しながら、狭間にある濃い紅色の窄まりを撫で回し、緩んだタイミングを逃さず指を沈める。 「んっ!」  口の中で遥の主張に熱くぬめる舌を這わせ、形を辿り、唇の輪で扱きながら、指先でそっと内壁の膨らみを撫でる。 「ん、んんんっ! んーっ、んーっ!」 遥は震える腰を抱え込まれ、逃げられず強制的に快感を味わわされて、耐えきれずに遂げた。 「はあっ、はあ……っ」  頬を赤らめ、焦点の合わない目をして弛緩している遥の身体を横向きに寝かせると、稜而はその背後にぴたりと身体を添わせ、薄膜で覆われた昂りを、ゆっくり根元まで遥の中へ含ませた。 「このまま、動くなよ」 「ん……っ? やあん……」 「動くなってば。ベッドが軋んで、二階に聞こえるかも」 その言葉に遥は身体をくねらせるのを止め、腰に回された稜而の手を縋るように掴んだ。 「遥。俺たちが繋がってるの、わかる?」 遥は眉根に力を込めたまま頷いた。 「ああ、遥……。すごく気持ちがいい。すごく嬉しい。愛してるんだ。自分の片思いが実ってる実感がある」 「最初に片思いしたのは、遥ちゃんよ……。一目見たときには、もう好きになってたわ。胸がドキンってしたのよ。世界中が鮮やかに色づいて、稜而の名札を見て素敵なお名前って思って、好きな気持ちと一緒に足の痛みにも気づいちゃって、超痛かったのん。あんなに泣いたの、この世に生まれた日以来だと思うのん」 「俺も好きだったよ。あの日の空は雲が夕陽に輝いてとても綺麗で、空から天使が落ちてきたのかと思った。仕事中じゃなかったら、何か鈍臭いことしてたかも」 「鈍臭いこと?」 「いきなり追いかけて、手を掴んで連絡先を訊くとか、しつこく追い掛けて行く手を遮って話し掛けるとか、そういう警戒されて嫌われそうなこと」 「それはそれで、されてみたいのん」 「そう? 『ねぇ、どこ行くの? 偶然だね、俺も同じ場所に行くから、一緒に行こう?』『あれ? 実は俺と待ち合わせじゃなかったっけ? そうだよね? 昨日約束したじゃん!』『信号待ちの間だけ、話し相手になってよ』『今から五秒間俺のこと無視したら、六秒目から付き合うことにしよう』『カラオケ行こうよ!』『じゃあ、そこの喫茶店ならどう? 一時間だけ! 十五分でもいいよ』」 「それはナンパなのん! 『オレ、今からそこの交番に行くんだけど、一緒に行く?』なのん!」 遥が笑うと、稜而はその小刻みに揺れる身体をぎゅっと抱き締めた。 「笑ってるお前も、泣いているお前も、全部好き。セックスしてるときに言うのはずるいかな? でも、愛してるからセックスしたいし、セックスしたいくらい愛してる」 稜而は改めて遥の腰を抱き、脚も絡めて、より一層、繋がりを深くした。

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