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第96話*
稜而は遥の腰をしっかり掴み、抜き差しを繰り返した。そのたびランジェリーの鈴が音を立て、自分たちの行為を知らしめる。
「ああ、あああんっ! ……稜而! あ、あ、んっ、あ……。はあっ、あっ、あっ」
遥は畳に爪を立て、頬を擦りつけながら快楽の責めに耐えていた。
稜而は遥の身体をそっと抱え起こし、自分の屹立の上へ座らせた。
「や、あああああっ!」
貫かれて、遥はまた身体を硬直させ、びくっ、びくっ、と身体を震わせる。
「いっちゃった?」
訊ねる稜而のほうへ振り返った遥は、一筋涙をこぼしていた。
「え、そんなに? どうしたんだ?」
「わかんない……、わかんないけど、全身がびりびりするのん。いっぱいいっちゃうのん」
遥は目を潤ませ、目尻から頬は真っ赤に染まり、はあはあと熱っぽい息を吐いていた。
「お前が着衣プレイで燃えるなんて珍しい」
稜而の正直な感想に、遥も素直に頷いた。
「えっちっちーなお衣装は、稜而へのサービスなのん。遥ちゃんは、着るのは楽しいけど、自分の姿にむはーってなったりはしないのよ……。でも……、んんっ、もうダメなのん。むずむずして……。やーん、動いちゃうのんっ!」
遥は稜而の膝の上で、自ら腰を振る。鈴の音が派手に響くのも構わず、尻を稜而に擦りつけるように前後に動き、一人で快感を追う。
「っ! 遥。すっごくいい……っ」
喘ぎ喘ぎ腰を振っている遥の姿に目を細め、自分へ与えられる快感も心地よく、しばらく遥を腰の上に座らせたまま楽しんだ。
「はっ、稜而っ、稜而っ! 苦し……っ! いきたい……」
遥は遂げることができない苦しさを、背後にいる稜而に向けて訴えた。稜而は遥の涙を唇でそっとすくうと、しっかり遥を抱き締める。
「一緒にいこう」
遥が頷くのを確認して、稜而は一気に猛攻を仕掛けた。力の限り身体を揺すり、部屋の中には遥の喘ぎと鈴の音が激しく響く。
「ああーっ、ああっ、ああっ、や、もう……っ、もうっ」
「いいよ、いって。俺もいく」
熱く甘く苦しい快楽に身を焦がすような思いをしながら高みを目指す。
「はっ、あ、稜而っ、はあああああんっ!」
遥は釣り上げられた魚のように身体を震わせた。
「遥…………っ!」
間を置かず、稜而も遥の中へ己を数回強く打ち込んで、身体を跳ね上げながら思いを遂げた。
二人で畳の上に倒れ込んで、くったりしている遥の首の下へ稜而が手を差し入れると、遥はもぞもぞ動いて稜而の肩へ頭を乗せた。
稜而は遥の頭を撫で、頬にキスをする。
「遥、大好き。愛してる」
こみ上げてくる感情をそのまま言葉とキスで表現し、しっかり遥を抱き締めてミルクティ色の髪に頬ずりをした。頬に触れる髪が擦れあう感触、髪の毛越しに感じる体温、世界中の花を集めたような香りに、稜而はうっとり目を閉じた。
遥も稜而の肩へ頬を擦りつけ、目を閉じた。稜而の体温と匂いを感じ、日向ぼっこをしているような気持ちになって笑顔になる。
「うふふっ、遥ちゃんも稜而のこと大好きよ。いっぱい、いっぱい、愛してるのん」
「そう? 俺のほうがもっと愛してるよ。いつも食べないように我慢するのが大変なんだ」
稜而は遥の頬にあむあむと歯を立てる。遥は頬に稜而の前歯が滑り、舌が触れる感触に首をすくめて笑った。
「あーん。猟奇的な愛なのよー。カニサンバリズムだわー。うー、サンバ! チョキチョキ! ♪あたまがじゃんぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる、とこやさん……、だっよ~ん! おいしゃさんもサラリーマンだ、しゅうまつラブラブ、きゅうかでおんせんだ! はくいのしたは、りんせんたいせい、くるまをとばし、やまおくの、おんせんち♪ 前髪が目に入りそうだから切りましょうねー」
遥が両手をチョキにして、稜而の前髪を切る真似をする。
「今がチャンスだと思って、院内の理容室に内線を掛けようとすると、必ず呼ばれるんだよな……」
稜而は苦笑し、遥は一緒に笑いながら、稜而の前髪を改めて指ですくった。
「稜而の黒くてしゃりしゃりな髪、好きなのん」
「そう? 俺は遥のミルクティ色の髪が好きだ」
毛先を流れに従って自然に指に巻きつけて、そっとキスをした。
「髪の毛、洗ってやる。……一緒に温泉に入ろう」
「おーいえー! 第二ラウンドに突入なのよー!」
キスを交わし、互いに手を引っ張り合って立ち上がって、二人は数歩歩くごとにキスをしながら居間を出た。
「これ、これ。これが飲める温泉なのん!」
居間を出てすぐのところにミニバーがあり、大きなポットに『飲用温泉。なるべくゆっくりお飲みください』と言葉を添えて置かれていた。
遥が茶碗に注いで差し出してくれるのを受け取り、中をのぞき込んで苦笑する。
「確かに白濁してるけど……。薄い重湯みたいな感じかな」
口をつけてとろみのある液体を口に含むと、遥が騒いでいたとおり、微かに塩気と苦みと舌への刺激があった。
「ね? これは男の子エキスだなって思うでしょ?」
「あー……、うん」
「最初に飲んだ人、勇気あるのん!」
「そんなことを言い始めたら、最初にナマコを食べた人も、納豆を食べた人も、懲りずにふぐを食べ続けた人たちも、皆、勇気があると思うけどな」
飲み終えた茶碗を置き、脱衣室へ移動して身につけている衣類をさばさばと脱ぎながら、稜而は笑う。
「それならドリアンも最初に食べた人はすごいと思うのん。遥ちゃんの個人的見解としては、ドリアンはトゲトゲしてて臭いから、それを見た小伝馬町牢屋敷のお役人さんがひらめいて、抱き石として使って悪い人を懲らしめたんだと思うわ。でも悪い人は、あんまりご飯をもらえないままごめんなさいってさせられてたからお腹が空いちゃって、背に腹は代えられなくて、目をつむって食べたら美味しかったんだと思うのん」
遥もさばさばと鈴が鳴るランジェリーを脱いで脱衣かごへ入れつつ、自分なりの見解を述べる。稜而は遥の見解に苦笑した。
「小伝馬町牢屋敷の時代の江戸にドリアンなんて……、何?」
遥が帯の端を稜而に差し出していた。
「引っ張ってなのーん!」
「は?」
聞き返した稜而が引っ張るより先に、遥は勝手に回転しながら脱衣室の端まで進んで行った。
「あーれー! 殿、おやめくださりませー!」
稜而の手には、ただだらりと帯が残る。
「あの……」
「あーん、私には病気のおとっつぁんがいるんですのん! おかゆができたわよー!」
壁際でさらに三回転してから、遥は「はい、カット! オッケーでーす、なのん!」と笑顔で頷き、浴衣を脱いだ。
「……満足した?」
「とっても満足したわー! さあ、仲良く温泉に入りましょうなのよー! おーいえー!」
遥は大人しくなったシンボルをぷるんぷるんと揺らしながら、全裸でぴょんぴょん飛び跳ねた。
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