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第107話
「ええっちゃなぁ! 遥ちゃんば、緊張しなかったっちゃよ。稜而に会った瞬間、心臓ば一回ドキンってして、すぐに安心したっちゃー。ほっとして、この人だって思ったっちゃよー!」
「そういう出会いもあるっちゃろー。先生と遥ちゃんば、仲良しなんちゃろ?」
「おーいえー! とっても、とっても、仲良しっちゃー!」
「だったらええちゃ。二人でしっかり前を向けばええちゃよ。男同士の夫婦ば、難しいこと言う人もいるっちゃろけど、いじめられたら、おばあちゃんに言いなさい。おばあちゃんがやっつけちゃる」
遥を励ますように、つないでいる手をぎゅっと握って上下に揺らした。
「えー! おばあちゃん、遥ちゃんが男だって、わかったっちゃかー?」
「わかるっちゃー! 腰ば張ってねえし、胸もぺったんこで! 声変わりもしてるっちゃろが! 年寄りば甘く見んなー、お見通しっちゃ!」
「すげー! おかあちゃんば、女の子だって思ったって言ってたっちゃよ。どこに行っても、遥ちゃんば、女の子に間違えられることのほうが多いっちゃのん」
「遥ちゃんば、女の子に間違えられても気にしないっちゃろ?」
「んだんだなのん! 髪の毛ば伸ばすとくるくるがお姫様みたいに素敵になるから気に入ってるし、服も着たいものを着るっちゃー。それで男と思われても、女と思われても、遥ちゃんば遥ちゃんちゃーよ!」
「ええっちゃね。おばあちゃんば、そういう肝の据わったわらしば好きっちゃよー」
「遥ちゃんも、おばあちゃんのことば、好きっちゃよー!」
おばあちゃんと手をつないだまま、るんたった、るんたったとあぜ道をスキップした。
太陽は天頂にあり、曇りのない丸い空のふちを緑の山が囲んで、三人の影は濃く短くくっきりとあぜ道に映っていた。
「そこの畑っちゃよ」
おばあちゃんが指差した畑へ、遥はひゃっほー! と突っ込んでいく。
「とうもころしー!」
「採ったら、そこのカゴに入れなさいっちゃー」
稜而の背丈ほどもあるトウモロコシ畑へ足を踏み入れ、おばあちゃんに教わって、稜而が持つかごいっぱいにトウモロコシを収穫した。手折るときの抵抗を、遥はしっかり自分の身体に感じる。
「断面にお水がにじむのん。今までお水を飲んでたのん。生きてたのん……。今、遥ちゃんがもいだから、食べ物になったのん……」
遥は自分の手に持ったトウモロコシと、自分がもぎ取ったあとの断面を見比べた。
「そうっちゃよ、遥ちゃん。こうやって命をひとつひとつもぎ取って、人間ば生きてるっちゃ。ご飯のときは必ず『いただきます』って言うんちゃよ」
「はいなのん! いただきますっちゃー!」
遥は両手に持ったトウモロコシを光り輝く空の向かって掲げた。
「遥ちゃんの髪の毛ば、トウモロコシのヒゲみたいっちゃけ、ケトウさんちゃ」
「おーいえー! 遥ちゃんの髪ば、ケトウさんちゃ! 確かにとっても似てるなって思うっちゃよー」
ウサギの耳のように頭の上にトウモロコシを二本かざして、遥は楽しそうに笑った。
「今は言ったらいけない言葉って言われるっちゃけどなぁ」
「言葉って難しいのん。どんな褒め言葉だって嫌いって気持ちで言われたら嫌だし、よくない言葉だって愛情を持って言われたら嬉しいのん。おばあちゃんのケトウさんは、遥ちゃんは嫌じゃないっちゃー! 渡辺ケトウ遥ラファエルちゃんなのよー! ♪チェッチェッコリ、チェッコリサ! にさんかマンガン、りゅうかマンガン、はるかちゃんっちゃ♪」
トウモロコシをウサギの耳にしたまま、遥は帰り道を踊り、飛び跳ねて進んだ。
帰宅すると、縁側に養豚農協で会ったおとうちゃんがいた。
「おかえりっちゃ! トウモロコシ、よくなってたっちゃかー?」
「ただいまっちゃ! おとうちゃんもお帰りっちゃー! とうもころし、実がぎっしりで大きいのがなってたっちゃよー!」
「外側の葉だけ剥いて、内側の葉を残したまま、蒸してもらえっちゃ。今年のトウモロコシば甘くて美味いっちゃよー!」
「おーいえー! 遥ちゃんもお台所のお手伝いしますですのーん!」
遥はおばあちゃんと台所へ行き、蒸し器に水を張ってコンロの火をつける。
おばあちゃんに教わりながらトウモロコシの外側の葉を剥いて、内側の葉とヒゲを残したまま蒸し器に並べていく。
「遥ちゃん、蒸し物のお料理は、電子レンジにお任せなのん……」
「人が集まるときは、電子レンジでは小さくて間に合わないっちゃけ、蒸し器の使い方も覚えておくほうが便利っちゃよ」
「こんな大きな蒸し器なら、しゅうまいが一週間分は作れますっちゃー! 遥ちゃんばグリンピースをトッピングするのが好きっちゃよーなのん! でも稜而ばあまりグリンピースのトッピング、好きじゃないっちゃけ。しゅうまいはグリンピースのある、なし、二種類作るっちゃー」
「しゅうまい、いいっちゃねぇ! お晩はおかあちゃん、しゅうまい作ろうっちゃかしらー。あんたたち、晩も食べてきなさいよ。どっさり作るっちゃけ」
「遥ちゃんも一緒に作りますのん!」
「昼を食べる前から、晩のことを考えるのは、いかにも女っちゃなぁ」
「おーいえー! ご飯を担当してたら、食材と献立と追いかけっこなのーん!」
「そうっちゃなあ。……ほら、もうよさそうっちゃよ、トウモロコシば蒸しあがったっちゃー!」
蒸し器から盛大に湯気が上がり、トウモロコシの甘い匂いが台所いっぱいに広がった。
「とうもころし、おーいえー!」
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