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「はぁ、お前絶対分かってねえな」 杏梨の声は優しかった。 いつもそうだ、低くて重くて何処か優しい声。俺の好きな声 「俺んとこに来ねえか?今の仕事は辞めろ、勿論どっちもだ。」 「何言ってるの?優さんは?」 「優のことは今でも好きだ。でも、仕方ねえだろ、今はお前の事が好きになっちまったんだから」 その時俺の視界がぐにゃりと歪んだ。 次に頬が濡れていく。 杏梨の手が俺の頬に伸びてそれを拭いてくれた。そこでやっと自分が泣いている事に気がついた。 「好き……俺も杏梨が好き!」 桜の木下でしたキスは塩っぱくてでも幸せな味がした。 「俺の仕事、知ってたの?」 「ああ、最初は冗談かと思ったよ。」 「女の振りをした方がバレにくいでしょ?」 医者という仕事は上手いこと動けば色々な情報が入ってくる。それと昔からの情報網も持っていて、表では医者を裏では情報屋をしていた。 「だとしても危ねぇだろ。もうすんな」 「わかった。でも医者は続けるよ、以外と好きだしこの仕事。」 人を売るのと同じような仕事をしておいて、人を救う仕事が好きだなんてよく言えたと思う。でも、本当に医者の仕事は好きだった。 「じゃあ家の専属医にならねえか?丁度今までのヤツがいい歳でそろそろ引退らしいんだ、」 杏梨のその一言で俺は佐嶋組の専属医になった。

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