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第3話
翔太が言うには。
「ちょっと親父と喧嘩になっちゃってさ。まぁ、もともと仲がよかったわけじゃないし。正直、母さんだって、俺よりも親父や妹のほうが大事だろうしさ」
妹の容子は、高校卒業と同時に、当時付き合ってた相手とできちゃった結婚をして、翔太を産んだ。しかし、その相手ともすぐに離婚して、翔太が小学生の頃に今の旦那と再婚。妹というのは、その相手との間にできた子供。確かに、小さな子供がいたら、どうしたってそっちに目がいってしまうだろうし、翔太も疎外感を感じてはいただろう。しかし、大学生にもなって今更じゃないのか?
「だから、あの家にはいられないから、おじさんに頼ろうと思って……」
上目遣いで俺を見ながら、差し出したラーメン丼を受け取る。ずいぶんとデカい手になったもんだ、と思いつつ、俺も自分の丼を持って炬燵に入る。
「別に、俺じゃなくたって、友達とかいるだろう」
俺が大学生のころには、すでに一人暮らしをしていたが、それでも親戚よりは大学やバイト先の仲間とかのところに転がり込むほうを選ぶ。
「生憎、みんな都合がつかなかったんだよ」
「みんなだと?」
「実家暮らしのヤツだとか、彼女と同棲してるヤツとか、病気で入院してるヤツだとか?」
「……とことん運がねぇな」
いつの間にかついていたテレビからの深夜番組をBGMに、俺たちは無言で食べ続けた。シンプルなラーメンだけに、食い終わるのはあっという間。その短時間の間、俺の頭の中では、明日、時間を見計らって容子に連絡しておかないといけないということと、面倒くさいなぁ、ということ、なんで容子が俺のメアドを知っていたのか、ということ、などがぐるぐると蠢いていた。
明日も仕事の俺は、食い終わると、さっさと丼を流しに持っていく。
「おじさん、俺が片づけるよ」
「あ?」
後ろを振り向くと、同じように丼を持って背後に立っている翔太。ほんと、俺よりデカくなりやがって。にっこり笑いながら、空っぽの丼を俺に見せる。
「ご馳走様でした」
「ああ、お粗末様。じゃあ、任せるか」
俺は狭い流しの前を翔太に譲った。時計を見れば、すでに午前1時。ゆっくり風呂に入りたいところだが、すでに時間も遅い。
「翔太、悪いがシャワーで済ましてくれ。俺、今日、仕事なんだ」
「え?別にシャワーでもいいけど……土曜日って、休みじゃねーの?」
「ああ、忙しいんだよ」
翔太は拗ねたような顔で俺の方を見たが、俺はそれだけ言うと、さっさと風呂場に向かった。
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