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第5話
翔太が転がり込んできて、一週間が過ぎた。
結局、日々の忙しさにかまけて、なんで喧嘩したのかを深く追求することもなく、早く出ていけとも言えずに放って置いたら、部屋の中は徐々に片づけられていき、いつの間にかに翔太の生活する物(布団だとか食器だとか)が増えていて、すっかりこの部屋に居ついてしまっていた。出かける時は「いってらっしゃい」、帰ってくれば「おかえり」と、すっかり同居人と化している。そして、仕事から帰ってくると、当然のように炬燵の上には夕飯が用意されている。たった一週間だというのに、それすらも当たり前になってしまっている俺も俺なんだが。
「翔太、いつまでうちにいるつもりだ」
俺は翔太が買ってきてくれていた発泡酒を飲みながら、俺の正面で旨そうに飯を食っている翔太を見つめる。今日は俺の好きな生姜焼きだ。少し焦げている部分もあるものの、それくらいはご愛敬というものだ。
「んー?」
ニッコリと笑ったものの、俺の質問には答えずに、飯を食い続ける。ガキの頃は、もう少し可愛らしい感じだったんだがなぁ、と思いながら、俺は肉を白い飯の上にのせる。
「彼女とかいないのか?」
男の俺から見てもイケメンの類には違いない。大学じゃさぞかしモテるであろう容姿に、少しばかり羨ましい、という気がしないでもない。かといって、俺の年齢じゃ、今更、どうしようもないんだが。
俺の質問に、笑顔を貼り付けたような顔で翔太が答える。
「いない、いない」
「モテそうなのに」
「……俺、ちょっと好みがうるさくてね」
二ッと口角だけをあげた翔太の瞳がきらめく。
「……へぇ」
その瞳の意味するものが何なのかを聞いていいものか、ちょっと迷って、俺は味噌汁で言葉を飲み込む。
「それより、泰寅おじさんは、どうなの……まぁ、ここ一週間見てれば、相手はいなそうだけど」
翔太の言葉はムカつくが、それを全否定できる要素は、俺にはまったくない。実際、離婚したばかりの頃は、何人か付き合ったりもしたが、今の俺には声もかからないし、俺の方からだって声をかけなくなった。かといって、風俗に行くわけでもない俺。すっかり枯れてるな、などと、今更ながらに思ってしまう。
「……悪かったな。ごちそうさん」
食事を終えて食器を流しに持っていこうと立ち上がる。
「……よかった」
背後で、ぼそりと翔太が何か言ったようだったが、食器のカチャカチャという音のせいで聞き取れなかった。
「何か言ったか?」
「え、ううん、何も。あ、食器、置いといて。俺、洗うから」
「あ、悪い」
「もう風呂沸いてるから、入ってきたら」
翔太がいることで、上げ膳据え膳で生活させてもらっている。こんなに楽していいんだろうか、と思いつつも、すっかり追い出す気も失せつつあった。やはり、俺の勘は当たっていたらしい。穏やかな生活は大きくは崩れてはいないものの、翔太は俺の生活に侵食し始めていた。
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