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第4話

しばらくゴソゴソと個室の中で着替えていた青年がそこから出てくると、明らかにサイズの合っていないスラックスに目をやった。 「ああ…まあ、そうなるよな」 「でっ、でもほらっ、ベルトしちゃえば大丈夫ですから!」 あはは〜と笑いながらベルトを締めて、外したエプロンを頭からもう一度被る。エプロンには可愛らしい動物のアップリケと、それには不似合いの四角いプラスチック製のネームプレート。 「後藤………なに?」 「あっ、僕、アキラです。中央の央でアキラって読むんです」 「へえ、初めて見た」 まじまじとネームプレートの文字を見ながら、人差し指で宙にそれを描く。 「あ、あの…」 「ん?ああ、俺は羊羹の人、だろ?」 「それはっ!その…すいません」 しゅんとなる青年…央の頭をくしゃりと撫でてやり、スーツの内ポケットから名刺入れを取り出した。一枚それを央に手渡すと、再び央の髪を撫でる。 じっとそれを眺める央を眺めて、ぷっと噴き出した。 「なんだよ、穴でも開きそうだな」 「いえ、意外に可愛らしい名前だなと思って」 名刺には【ライター・中村遊一朗】と書かれていて、央の知っているタウン誌の名前が載っている。 ちらりと腕時計を見た遊一朗が、さっきと同じようにまだ名刺に見入っている央の背中を押した。 「ほら、とりあえず仕事戻れ」 「えっ、でも…」 「お前、休憩は?」 「あと30分くらいしたら…」 央の手からぱっと名刺を取り返すと、裏に何やら書き込んでもう一度手渡す。そこに書かれていたのは数字の羅列。表面にも同じようなものがあることから、これはおそらく個人的なものなのだろう。 それを確認した央が嬉しそうに笑うと、遊一朗がドアを開けてくれた。 「おやつ、食わせてくれんだろ?」 「はいっ!」 二人で館内に戻り、入り口まで歩く。自動ドアで遊一朗を見送った央が、エプロンをキュッと握りしめながらその背中を見つめていた。

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