141 / 168

第141話

『別れましょう』 希一の口から出たその言葉に碧の心臓はドクンと跳ねた。 「待て希一、僕は……」 「碧さんはαのご令嬢の方が似合いますよ。 ああ、九条家の当主の事なら大丈夫です。 父さんに碧さんを当主にしてくれるように頼んでみますので心配ないです。 なので、さようなら、今までありがとうございました。 いい夢を見させて貰いました」 希一は最後は笑顔で感謝の意を伝え深々とお辞儀をしてからその場を去った。 ちゃんと笑えていただろうか? ちゃんと伝わっただろうか? 本当は碧の傍に居たい。 けれど彼には自分はふさわしくないから色んな想いを抱きながらも別れを告げた。 希一が去ってどのくらい経っただろうか。 呆然と立ち尽くす碧に雫が声を掛けるも心ここに在らず。 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っても動くことが出来なかった。 「僕は……… ただ………」 ただ希一が好きなだけなのに…… 母に逆らえず希一を守ってやれない自分が情けない。 後悔だけが募る。 ずっと呆然としたままの碧に痺れを切らした雫がため息を一つつくと彼の頬を両手で挟むように叩く。 「いい加減現実を見たらどうです? 貴方はフラれたんですよ」 「………っ!!」 「全部貴方のせいです。 一番傷付いてるのは希一様なんですよ。 もし貴方の心がまだ希一様の所にあるのならば今すぐ行動なさい」 「……っ 僕…は………」 今更どうすればいいのか。 どうすれば希一とやり直せる? どうすれば……… 元はと言えば自分が母親に逆らえないからだ。 この状況を変えなければ意味がない。

ともだちにシェアしよう!