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第142話

「大丈夫か?」 「うん、平気」 碧に別れを告げた希一に陽介が声をかける。 別れを伝えることは勇気がいった事だろうが、それでも昨日よりもスッキリした顔になっていた。 もういつまでも引きずっていても仕方無いと前を向くことに決めたのだ。 それからと言うもの、碧と接する事も無くなった。 寂しい気持ちが未だに拭えないがそれを掻き消すかのように馬との時間を過ごす。 「よしよし、今度こっちの足上げて」 馬の脚をポンポンと叩くとその脚を上げてくれて、その脚を支えながら蹄の裏に溜まった土等、汚れを掻き出す裏堀りを行って行く。 綺麗になった所でブラッシングをしながら馬とのスキンシップを楽しむ。 すると馬が希一の顔を上唇で撫でた。 まるで大丈夫?と言うようなその仕草に少し動揺してしまった。 「馬は人の表情をよく見てるからね」 「佐久間部長……」 一連の様子を見ていた佐久間が話しかけてきた。 「何があったのかは知らないけど、あんまり無理しないようにね。 君はいつも頑張りすぎるから」 佐久間に言われ未だに晴れない気持ちを抱え、顔に出ていたことに気付き反省した。 挙げ句馬にまで心配されてしまい気を引き締めなければと思った。 「ご心配をお掛けしてすみません、俺は大丈夫ですから」 「………まぁ、言っても九条は変わんないか。 ツラいことはさ吐き出しちゃった方が楽だよ。 自分も、ね。 じゃあ、また後で」 そう言って佐久間はここを後にする。 この言葉が何処まで希一に響いているのか分からないが後は本人次第な為必要以上には口出しはしなかった。 希一は一息着くと馬の方に向き直る。 「ごめんね心配かけちゃって。 強くならないと………」

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