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第153話
父と二人の空間、少しだけ沈黙が流れる中父が外を見つめながら口を開く。
「お前も結婚か……」
そう呟いた秀一の声は感慨深いような、それでいて若干寂しさも含んでいるようにも思えた。
「今すぐじゃないよ。
ちゃんと大人になってから」
「そうだな。
けど婚約はしたんだろ。
その指輪、似合ってる」
「……っ!!
ありがと、なんか恥ずかしい……」
改めて指摘されると照れてしまう。
けれど同時に本当にプロポーズされたんだと実感して嬉しくなりその指輪を反対の手で撫でながら笑みが溢れる。
そんな希一を見て秀一は嬉しくもあり寂しくもあり少し複雑な心境だ。
「父さん、俺ね、結婚なんてあり得ないって思ってた」
「………」
「父さんと母さんみたいに運命の番なんて極少数で自分にはそんな人現れないって……
だから一人で生きていけるように勉強頑張らなきゃって、父さんに頼らなくても大丈夫なようにって」
「希一………」
聖雷高校に入ったのだって将来に不安があったから。
Ωがそう簡単に就職出来るとも考えられない。
そこで父に頼ってはそれはただのコネだ。
それにいつまでも親に頼るわけにはいかない。
ちゃんと親孝行出来るくらいにならないとと思ったから。
そう考えると母は父と結ばれて幸せだろう。
それと同時に思う事がある。
「俺、母さんが羨ましいって思った。
番とか結婚とか俺には縁が無いって……
αもΩも数が少ない上にΩはよく思われてないし、それでなくても俺なんかを好きになる人なんてよっぽどの物好きだけだって」
友達もいなくてずっと自分に自信が持てなかった。
仲のいい両親を見て自分には親しく話せる他人はいないのが余計に苦しかった。
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