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第90話

希一の話を聞き終えてこの場が静まり返った。 彼の過去はつらいもので、でもそれを頑張って話してくれた。 未だ少しだけ震えるその体を碧は抱き締めた。 「碧…さん……?」 「話すの嫌だったろ? それでも話してくれてありがとう」 そう言ってくれた彼に希一は驚いて目を見開いた。 もしかしたら引かれたかもしれないと思ったが、彼の言葉は希一にとって嬉しいものだった。 それに安心して涙が頬を伝った。 希一が落ち着くまでその状態でいてくれた。 こんな自分でも優しくしてくれる人がいる。 本当に嬉しかった。 「もう大丈夫か?」 「はい、すみません。 ありがとうございました」 この先何かあっても彼らは助けてくれるんだろう。 でもそれではだめだ。 もっと強くならないと。 具体的にどうすればいいのか分からないけれど、母が以前言っていた。 どんなことがあっても味方でいることが一番彼らに返せるものなんだと思う。 「今後誰かに嫌なことされたらすぐに言えよ?」 「はい」 「俺がなるべく傍にいるし九条の人間には流石に手は出さないとは思うけどな」 陽介がそう言って笑う。 つられて希一も少し笑った。 その陽介の希一を笑顔にした様子に碧が嫉妬したり…… この和やかな様子に希一はきっと大丈夫だと安心した。

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