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第4話
「ァ、はぁ……はぁ……な、んだ。これ」
神田の策略によって媚薬を投与されたギルシャワの身体は、徐々に力を失い。息を大きく乱し始めた。
「ひっ!ぁ……」
自分の指が肌に触れるだけで、今まで感じたことのない快感と痺れが足先から頭のてっぺんまでビリビリと這いより、とうとうギルシャワはその場で崩れたように倒れこんでしまう。
「ぁ……はっ、ぁ///」
「おい!大丈夫か!?」
色々と理解が追い付かないであろうこの状況の中で、ヒーローはただ苦しむギルシャワを心配し駆け寄った。
今ならギルシャワを簡単に倒せる絶好のチャンスにも関わらずだ。
「それだけヒーロー様はギルシャワ様を大事にしてるのねぇ!あぁあ!!このままヒーロー様お持ち帰りしてあげてぇ!!」
しかし媚薬で発情しているにもかかわらずギルシャワは、近づいてくるヒーローへ威嚇の眼を突きつける。
まるで「これ以上近寄るな」と訴えかけるように。
「あぁん!でも、涙で潤んだその瞳は麗しくて興奮しちゃう!」
この状況を作った全ての元凶は、未だ姿を隠しまま自分の欲望を叶えられたことに満足を覚え、ひたすら昂ぶる感情を湧きたたせる。
もしこの事がヒーローや悪に知られてしまえば、きっと神田は終わりだ。
それは彼女自身が一番分かっている。
それなのに、どうして彼女はこのような行為を続けるのか。何が彼女をそこまでさせるのか。きっと普通の人間には理解しえない事だろう。
「はぁはぁ……どうするのヒーロー様。このまま性欲にまみれたギルシャワ様を放置するの?それともスッキリさせちゃう?ぐ腐腐」
望遠鏡で2人の様子を窺いながらよだれを垂らす神田。
その時だった。
「アヒャヒャヒャヒャ!!なぁあにやってんのぉ?ギルシャワぁあ?」
カラカラと、陽気で、しかしどこか恐怖を感じさせる笑い声が上空から響き渡った。
その声には神田、そしてヒーローにも聞き覚えがあるものだった。
「あぁ!!もしかしてもしかしてぇ!!」
「……貴様は」
「おやおやおやぁ~~~??お久しぶりですねぇ~~~ヒーローさん。なんです?ギルシャワに何か盛っちゃいましたぁあ??アヒャヒャ!!物好きですねぇ貴方も」
突如現れた黒い靄。そこからまるでモヤシのように細い腕が勢いよく飛び出したかと思えば、苔の様な色をしたボサボサの髪がゆっくりと姿を現す。
「あぁ~~……人間界に転移するのはめんどくさくて、めんどくさくて、めんどくさくてたまらないのに……どっかの?誰かの?白髪頭が?役に立たないから。オレはここまで来させられたんだよねぇ~~?ヒャヒャ!!分かってるかぁ???ギルシャワ」
細い身体には合わない大きめの白衣を着崩したまま、ずりずりとお尻から垂れるトカゲの尻尾を重たそうに引きずり、瞳孔が開いた眼を倒れ込むギルシャワに突きつける男。
その見た目から連想させられたのはーー死神だ。
「あぁ……相変わらず素敵な狂気の笑みだわぁ。リザルド様……」
そんな狂った男さえ萌えの対象とする神田は、突然現れた悪の組織リザルドを目の当たりにし、さらなる興奮を覚え、喉を鳴らす。
そんな彼女に全く気が付かないリザルドは、大きく歪ませたままの口でまたカラカラと笑いだし、ゆっくりヒーロー達の方へ近寄ると。激しい性欲で身体を震わせるギルシャワの頭を、捻じ込むように踏みつけた。
その瞬間。
張り詰めた空気と共に、刃がぶつかり合う音が周囲を囲んだ。
「クソッ」
ヒーローの手に握られた剣に対抗するのは、小さな果物ナイフ。
白衣に忍ばせていたのだろう。お互いぶつけていた刃を一旦離すと、ルザルドは左手に掴んでいたナイフをたたみ、白衣のポケットへナイフを戻した。
基本リザルドはあまり戦闘をしない。せいぜい受けた攻撃をかわす程度くらいだ。
それはあまり戦闘を好まないだけなのか、それとも力を見せたくないだけなのか。それはあの神田でも未だ分からない。
リザルドという男は、それだけ謎めいた男だ。
「リザルド。その足をどけろ」
「アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!ぁあああ~~~ヒーロー様がぁ、オレ達悪を、かばうのですかぁあ???」
「ギルシャワは今苦しんでる、放っては置けない」
「おやおやそうですかぁ?オレの眼球にはぁ、どう見ても苦しんでいると言うよりぃ~~??発情した動物にしか見えませんがぁあ??」
踏みつけていた足をどけ、土まみれになったギルシャワの髪を無造作に鷲掴むと、ヒーローの目の前にギルシャワの顔を近づけ見せつけた。
発情し、淫らに息を荒げるコイツは発情した動物だと言わんばかりに。
「ァァア!!///っ、お、れに……触れるな。クソッ……りざ、るど、がぁアッ!//」
髪を掴まれただけでビクビクッと身体を震わせ、喘ぎ声をあげるギルシャワ。
その姿にリザルドは、新しいおもちゃを与えられた子供のようにゲラゲラ笑い。目の前でその姿を見せつけられたヒーローは、欲しい物を我慢する子供のように唇を噛みしめ拳を握った。
そんな近くでよだれを垂らす不審者 は、望遠鏡を覗きながら不気味に笑う。
「ぐへへ……なにこれなにこれ。今から3Pでもするの?ギルシャワに二輪挿しとかしちゃうぅ??げへへ」
妄想の世界にまで入りだした神田だったが、楽しみは突然終わりを告げた。
「アヒャヒャぁあぁあああああああ~~~~~………あ。飽きた」
笑いでグチャグチャに歪みきっていたリザルド顔が、一瞬で冷たい無表情へと変わった。
今まで何に笑っていたかも忘れてしまったかのように、楽しさという感情を忘れてしまったかのように。
その感情の起伏の激しさには、ヒーローも身を固まらせた。
コイツは何かが危険。そう感じたのだろう。剣を握り、いつ攻撃がきてもいいようにヒーローは身構えた。
だが、リザルドにとってヒーローはもう眼中にない。それどころかギルシャワさへも興味の対象から外れてしまった。
「あぁあ。そろそろ帰らないとドール様に怒られるかぁ」
『帰る』今それしか考えていないリザルドは、重たそうにギルシャワを肩に担ぐと、細い指先で何かをなぞるようにスッと横へ流した。
すると、禍々しい黒い靄がまたリザルドの近くで現れ始めた。
「じゃあねぇ~~ヒーロー様」
「ま、待て!!」
ひらひら手を振り、黒い靄の中へ入ろうとするリザルドを、ヒーローはその場でただ腕を伸ばし。何も掴めない手を広げた。
その光景には神田の顔も一気に冷め。静かに望遠鏡を外す。
「なんだぁもう終わりか……仕方ない。媚薬で乱れる2人は見れなかったけど、とりあえず可愛いギルシャワ様が見れただけでも良しとするか」
それでもまだ物足りなそうに肩を落とし、その場から立ち去ろうと神田が動き出したーーその時だった。
「俺様の登場だぜ。リザルド」
ヒーローの背後から、青いマフラーを靡かせる金髪の男が姿を現した。
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