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17 入社一年目12月。小宮side

『山崎…』 ボソリと名前を呼ぶ。 俺はその名前を呼んだ瞬間に震えた。 片手にはティッシュ。 見つめるのは壁だ。 この向こうに山崎がいる… そう思うだけで興奮した。 山崎を思いながら抜くのは初めてではない。 むしろ、抜く時にはほとんど山崎のことを考えていて、今思うとここ数ヶ月、女性の体を見て抜いていない。 こりゃ重症だな。 俺が山崎のことを意識し始めたのは10月頃だ。 意識というか、気が付くと好きになっていた。 入ってくる新人が辞めていくのが何年も続いた。 その中で今年入ってきた山崎は違った。 部長に怒られコイツもまた辞めて行くのか…そう思ったけれど、残業してまで頑張る姿に心打たれた。 新人がここまで頑張っているのだから、俺も初心に戻って頑張らないといけないな… 最初はそう思っていただけだったが、毎日毎日頑張る姿を見る度に惹かれる自分がいた。 ある日、お客さんの話が長くなり事務所に戻るとまだ山崎が残っていた。 俺はどうしても声をかけたくて、缶コーヒーを買って近付いた。 平常心…さりげなく… その言葉が頭の中を回る。 『お疲れ。』 俺、さりげなく声かけられてる? すごく心配になったが、山崎も普通に接してくれているので大丈夫だろう。 色々話をし、俺は帰ることにした。 少しぐらい触れても…いいよな? 『そうか。まぁ、気をつけて帰れよ。お先。』 そう言って頭をポンポンした。 その時の山崎の顔が忘れられない。 そして、確信した… 俺は山崎が好きだ。

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