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72 入社三年目10月。
10月も後半に差し掛かると夜は冷える。
小宮さんと飯を食って駅まで歩いている途中、前から歩いてきた女性が話しかけてきた。
『あれ?圭介?』
圭介。なんだかその呼び方が癪に障り、キッと女性を見る。
『エリ…』
エリ?小宮さんも下の名前で呼ぶ仲なのか?
『元気だった?圭介と別れてから三年か、早いね。』
『あ、あぁ。』
別れてから…その言葉を聞いてこの女性が元カノだということがわかった。
俺の胸はズキリと痛む。
とても綺麗でモデルのようにスラリとした女性。
小宮さんととてもお似合いだ。
『友達?』
そう聞かれて小宮さんが答えた。
『会社の後輩。』
『そっか。じゃぁまたね。』
会社の後輩。
彼氏なんて言えないもんな。
わかってるけど…なぜかすごく悔しくて、俺はズンズンと一人で歩く。
『山崎!!』
そう呼ばれハッとした。
『あっ…すみません。』
後ろから追ってきた小宮さんが不思議そうに聞く。
『どうした?』
『いや、別に。』
なんだかあまり喋りたくなくて素っ気ない返事をしてしまった。
小宮さんは何も悪くないのに…
『なんか機嫌悪い?』
『全然!!そんなことないですよ!!』
わざと元気よく見せスタスタと歩く。
『おい、ちょっと!!』
グイッと腕を引かれ小宮さんと向き合う。
『山崎?』
心配そうな顔をする小宮さんを不思議に思っていると、自分の手に水滴が落ちてきた。
って、あれ?
俺、泣いてる?
バカだ。元カノにヤキモチ妬いて泣いてるなんて絶対に引かれる。
そう思うのに全然涙は止まらなくて…
『山崎…ちょっと話しようか。』
そう言われ腕を引かれる。
外でできる話でもないので、俺たちはとりあえずホテルに入った。
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