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90 入社三年目3月。

3月も半ばに差し掛かった頃、それは突然言い放たれた。 『転勤…』 『うん。今部長に言われた。詳しいことはまだこれから話されるらしいけど、とりあえず山崎には先に言っとこうと思って。じゃぁ行くな!!』 そう言って小宮さんは走って行ってしまった。 転勤… その言葉しか発することができなかった俺は、小宮さんがこの場を去ってからも動くことができず立ち尽くしている。 転勤?小宮さんが? この幸せがずっと続けばいいな…なんて呑気なことを思っている場合じゃなかった。 転勤ってどこへ? うちの会社は大阪に本社があり、サテライトとして大元のセンターが東京、名古屋、福岡、北海道にある。 その他にもセンターの下にいくつか代理店があるが、大元のセンターから代理店に異動になるケースは少ないので、今回もそれはないだろう… と、いうことは必ず東京を離れることになる。 じゃぁどこへ? 俺の不安はどんどん大きくなる。 今まで同じところで働き、毎日顔を合わせていたのに急に会えなくなり、しかも遠距離になったら俺たちはどうなってしまうんだろう? 体が結ばれたのだって一回きり、男女のように結婚の約束ができるわけじゃない。 お互いがお互いを思っていたって形式上2人を繋ぎ合わせるものなんて何もない… 俺はどうすればいい? 何も考えられなくてその後の仕事は手に付かなかった。

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