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93 入社三年目3月。小宮side
『転勤ですか!?』
『あぁ。向こうがどうしてもお前にと言うんだ。』
『なんでですか!?』
『来年から本社は新人の教育に力を入れるらしい。で、色んな支店から優秀な人材を引っ張るらしいんだが、その中にお前が入った。』
『…』
『長くて三年だ。もしかすると一年で帰ってくることもできるかもしれないし…。なんだ?お前こっちに何かあるのか?』
『えっ?』
『いや、なんか辛そうな顔をしているからな。彼女か?』
『彼女…まぁそんなとこですかね…』
『そうか…それは気の毒だな。でもまぁ、お前の出世のためだ。彼女も納得してくれるだろう?そうか、この機会だ。結婚なんかも視野に入れて大阪に一緒に連れて行ったらどうだ?結婚式には呼んでくれよ!!』
そう楽しそうに言いながら部長が俺の肩を叩く。
彼女なら部長の言う通りそうしていたかもしれない。
彼女なら…
アイツは男でアイツ自身の出世も将来もある。
仕事を辞めて大阪について来いなんて言えるわけもなく、ただただ離れて生活するのみ。
男女のように結婚の約束ができるわけでもなく、形式上俺たちを結ぶものは何一つない。
なんだろうな…
俺完全に余裕なくなっちゃってるよ。
元々どちらかというとモテた俺は今まで何人かの女性と付き合ってきた。
自分の恋愛は結構ドライだったので、去る者追わずという感じで一人にずっと依存するタイプではなかった。
なのになんでだろう…
山崎だけは絶対に手放したくない。
散々無茶苦茶に抱いた挙句、俺の印と称して身体中に紅い印をたくさん付けた。
隣で眠る山崎の髪に指を通しながら今までのことを思い出す。
お互い臆病者でなかなか自分の気持ちが言い出せず、付き合うのにすごく時間がかかったこと。
もっと早く気持ちを伝えていれば2人でいれる時間がもっともっと長かったのかな…
永遠の別れではないはずなのに、なぜだか俺が遠いところに行くことで山崎が俺の前から姿を消してしまうんじゃないかと不安になる。
いつからこんなに依存するタイプになったのかな…
こんなに不安になる俺は女々しいのだろうか。
不安と言えばもう一つある。
俺の代わりを埋めるように配属になるのが同期の西野だ。
西野は元々東京の支店に俺と同期で入ったのだが、四年前に名古屋の支店に異動になった。
だから山崎は西野を知らないわけで…
でもなぜだかそれが不安で仕方が無い。
もちろん山崎への不安というのは将来のことも考え、結婚するために女性とお付き合いすると言い俺の元を去ってしまうのではないかということもあるが、この西野というやつが厄介で、昔からの噂では男も女もイケるバイセクシャルであるということ。
自分が気に入ったやつならば男でも女でも関係なく喰っていくと…
まずいやつがきたな…と俺は正直焦った。
山崎のことを信用していないわけでもないし、俺たちの関係はそんなに簡単に崩れるものでもないと思ってはいるが、所詮男と男。
障害物はたくさんある。
みんなに公にできない分、遠くからじゃ守ることもできないからな…
さてどうするか…
俺は隣で眠り続ける山崎を優しく撫でながら考えたのだった。
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