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第3話

 今日もいつものように白いドアが開いて、そこから顔を覗かせるであろう凌馬を待つ。一日の半分は何も考えられない。寝ているのか起きているのか分からない時間が続いている。まだ動かない手足が気になる。僕はもう一度あの家に凌馬と帰ることが出来るのだろうか。  「今日はこれ持ってきたんだ。お気に入りだっただろ、このブランケット。いつも引っ張って取り合いになって……」  凌馬がいつも使っていたブランケットを持ってきてくれた。ありがとうと伝えたいのに声が出ない。  「頼むからまた元気になって。お願いだから、また一緒に暮らそう」  また頬をはらはらと真珠の粒が転がり落ちる。最近、僕の顔を見るたびに泣いているのはなぜだろう?  「……独りは、嫌だ。早く元気になって、お願い」  凌馬を置いてどこにも行けない、ずっと一緒だった。これからも変わらない、そのことを伝えたい。伝えたい想いと言葉があるのに声も出ないし、手足もぴくりとも動かない。先生が入って来てそっと凌馬の肩に手を置いた。その手に頬を付けるようにして凌馬が目を閉じる。零れ落ちる真珠の粒は、先生の手の上に小さな水たまりを作った。  「大丈夫、彼を信じてあげなさい。きっと凌馬君の元に帰って来るから」  「ありがとうございます、よろしくお願いします」  「全力は尽くすよ、できるだけの事はする、君のためにも」  凌馬の零した真珠の粒は先生の大きな手で拭い取られた。そして凌馬のあの笑顔が見えた。ああ、僕じゃなくても君の涙を受け止めてくれる人が出来たんだ。凌馬、もう一人じゃないんだね。  先生、綺麗でしょう?凌馬のその涙。

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