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策士、策に溺れるとは、まさにこのこと。
「………………」
とぼとぼと、夕刻で人通りが多くなった繁華街を歩きながら、蒼汰は再び大仰に溜め息をついていた。
蒼汰が恋をした中でも、日高ほど解り易く純粋な子はいない。同性愛者と言う以外は。
ノーマルの蒼汰には、同性愛者を理解できる部分と理解できない部分があった。
初めて好きになったのが日高だから、そう言う理屈が通るとは限らないのだ。たまたま日高を好きになったのか、今後も日高以外の同性に興味を持つのか、本人でさえ不明なのである。ソレに、ノーマルに返り咲くのか、両刀として美味しく双方を頂くのかも定かもではない。ゆえに知識がない蒼汰は返り討ちにあう。
そして、日高に敗れた蒼汰は見事絶交宣言を喰らわされていた。
「光佐の息子なんだからさぁ。もっとこう、ぱっぱっと手際よく、その辺の女子をナンパするようにだな、さくさくっとコクちゃえないモンなのかよ?」
「そう簡単にことが運んでたら、こう悩んでないと思わない?」
「まぁ確かにだわなぁ。ところで、その日高って子はそんなに可愛いのか?」
「可愛いと言うか、愛らしい?」
下唇の下に人差し指を押し宛てるようにしてう~んと唸る。
蒼汰にとって、そう言う外見的なところから好きになったことがないから、多少ズレているときがあるからどうだろうと疑問系になった。だから、一目惚れはしたことがないのだ。
片や、落ち込む蒼汰を励ます明智晴信は一種の病気のような一目惚れ野郎である。
苦い顔をして、晴信は蒼汰の好きになった相手の顔触れを思い浮かべた。
普通以下。性格はまさに天使なのだが、見た目がソレだと釣り合わないのだ。破局の殆どがソレだから蒼汰は救われない。もっと貴方に相応しい彼女が現れるわと去られる。
謙虚な彼女たちだったから、嘘偽りなことは言わなかった。
ソレは、周りのモノには救われたのかもしれないが、当人同士が救われなかったら意味がないことだ。おかげで晴信がこう苦労をする。
まず対局の後だろうが、対局の期間中だろうが電話一本で呼び出される。
「もしもし、晴信さん、聞いて下さい」
「俺、忙しいんだが………」
「父さんの布石欲しくないんですか?」
「………あ、その、欲しいです。ってかさぁ、未成年が成人男性をそう言うふうに脅してもイイのかよ?」
などと言い返すが、結局蒼汰に押しきられて愚痴を聞くハメになる。解った、今すぐいくから待ってろと。
晴信の隣をとぼとぼと歩く蒼汰が、両目を大きく見開く。
「あっ、だからって、見せないからね。父さんでさえ大変だって言うのに、ソコに晴信さんまで入ったら僕の立場完全になくなるから」
「ソレは、結構だっ!!」
がなり返して、晴信は深々と嘆息した。
コレ以上、お前に振り廻さたかないよと言う顕れであった。
本願寺一家と明智一家は仲がイイ。
父親同士がプロ棋士同士で顔合わせが多い以前に、母親同士が姉妹であった。
そして、碁会所の橘朱美は晴信の姉だ。嫁ぎ先が橘と言う碁会所を開いていた。
「そもそもだ。こう言う恋話は朱美姉にしろよなぁ。女心なんて、俺は解んないよ?」
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