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  ◇◇◇ 日高は目を輝かせた。 「やっぱり、はっくんだ!よかった、また逢えて♪………って、はっくん、覚えてない?」 首を傾げる日高に、晴信は苦い顔をして肩をすくめる首を横に振ると、肩肘を折って手を伸ばして床の服を纏わす。 日高を殴ってしまった蒼汰は、その間黙って俯いていた。 「………そっか。あっでも、オレもさっき思いだしたからそのうち思いだすよ♪」 晴信は目をしばたたかせる。 恋人同士になったから遠慮がなくなったのかと最初は思ったが、そうでもないようだ。と言うか、こっちの日高の方が可愛い。子犬のようにつきまとうさまは、ギュッと抱きしめたくなるほどだ。蒼汰の顔が怖くて見えないが、コレとソレは関係ない。後からねちねちと嫌みを言われるだろうが、日高がギュッと抱きついてくれたらソレももうチャラだ。 一方、どんどんと影を落としていく蒼汰だったが、次第に拳を握って喚きだす。 「なんで、僕じゃダメなの?父さんにフラれたって言っても、どうして晴信さんなの?ありえないって!」 そう喚きたくなるのも無理がない。日高の目は晴信に釘づけで、光佐以上にうっとりとした顔を向けている。この一週間でなにがあったと問い詰めたくなるのも解る。 その原因があの手紙だと蒼汰は薄々だが気がついている。気がついているが、ソレを素直に受け止められないのだ。そう、蒼汰も告白する前にきれいさっぱりと日高にフラれているのだから。 改めてよく考えてみれば、日高の光佐への想いは好きと言うよりも、敬意が含まれた親愛に近い部分があった。光佐にキスされたいとか、抱かれたいとう言うソレがまったく垣間見れていなかった。 顔を真っ赤にして狼狽える日高に、晴信はしたりと笑った。助け船をだしてもバチは当たらないと言う顔で、蒼汰を見てやると「ダメ、オレ以外を見ないで」と言う顔をするのだから。 一気に血を逆流させる蒼汰をよそに、日高は語尾を濁しながら応えた。 「ありえないって言われても、オレもよく解らないよ………。はっくんがイイって思うんだから仕方ないじゃん………」 蒼汰は首をひとつ振った。 「僕は認めない。絶対に認めないから!」 ただひとりを除いては、ほかの誰にも許さないと言う、目。 相手が光佐だったから許せた言葉でも、晴信に向けられるとなると心底腹立たしかった。 「な、別に蒼汰に認めて貰う必要なんか全然ないじゃん!オレが誰と付き合おうが蒼汰には関係ないだろう!」 光佐の息子だからって言っても、囲碁を教えて貰っているからって言っても、学校の先輩だからって言っても、私生活まで踏み込んで欲しくない日高。そんな彼に蒼汰は平手で思いっきり頬を叩いた。 「黙れ!」と。 だから、晴信も一瞬硬直した。少なくとも、この場は合意の元で、なおかつ晴信には憤怒される覚えがあっても日高にはソレがない。やっかみとも取れるソレに、言葉を失う。 「………よくも叩いたな!」 日高は立ち上がると蒼汰に向き直り、低く針のある声を発した。 「痛いじゃんか!蒼汰の馬鹿!」 「ちょ、日高くん!」 すでに拳で殴りかかっている日高を取り押さえようとするが、蒼汰も負けじと拳で日高を殴り返している。 「前々から気に入らなかったんだよ。父さん父さんって、なんで僕のことも見てくれないんだよ!」 突然痛々しい本音をぶつけられて、日高は当惑する。 「どう言うこと?」 「ずっと日高くんのことが好きだったって言ってんの!少しは解ってよ!」 取っ組み合いしながらあっさり答えて、蒼汰はちらりと晴信を眺めやる。 「晴信さんみたいに昨日今日じゃないんだ。ソレなのに!」 言われてようやく日高は思いだした。 ぐっと唇を引き結び、いままで見て見ぬふりをしてきたことを後悔する。 「蒼汰には悪いけど、そう言う感情は蒼汰には持てない」 呼吸を整えて晴信を見る。ソレを受けて、晴信は日高と蒼汰の間に入った。 蒼汰の腕を掴んで、コレ以上日高を殴らないようにさせる。蒼汰は蛇のようにうねりながら晴信を恨めしそうに睨んで、いまだ怒りを押さえられないようで背後にいる日高に襲いかかろうとする。 片や、日高の頬と左目元が赤く腫れ上がって更に口端が切れていた。好きなのに、ほかの誰のモノになるくらいならと大切なモノを簡単に壊そうとする蒼汰は、ソレはもう恐ろしいとしか言いようがなかった。 晴信が蒼汰の腕を拘束している間に、日高は厳かに殴られたところに手を当てる。 怯えるな。怯むな。ひとりじゃないんだ。 「蒼汰、ゴメン。オレは蒼汰の気持ちを受け入れられない」 動きを封じられていた蒼汰が、急に大人しくなった。すると、するすると力が抜けていくようにその場にへばり込み、大きな声をだして泣きだしてしまった。 流石にこの世の終わりみたいに大きく身体を震わせて号泣されたら、晴信も掴んでいた腕を離してしまう。 日高も叩かれて殴られたのに、申し訳ない気分になって、大泣きする蒼汰に近づいた。 「蒼汰、そう泣くなよ。コレじゃ、オレが悪いみたいじゃんか?」 ソレでも泣き止まない蒼汰に、日高は頭を撫でてやる。 ソレが返って裏目にでたのか、蒼汰はわんわんと声を上げて泣きだした。一拍を置いて、困った顔の日高は大泣きする蒼汰を抱きしめた。  

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