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  ◆◆◆ 日高の腫れ上がった顔を謝りながら冷やす蒼汰顔も涙と鼻水で真っ赤に腫れ上がっていた。 晴信が代わろうと言うが、蒼汰は断固と日高から離れなかった。 ふと見れば、西の昊が青紫色に染まりかかっている。日が沈んでしまったようだ。 今日は疲れた。様々な感情が入り交じり、幾多の修羅場も受けて、ソレでも事態の悪化は腫れ上がったふたつの顔だけなのだ。 いまいちフに落ちない晴信は、日高と蒼汰を眺めやるとつらつら考え込む。 そんな彼の耳に、高めの明るい声が突き刺さった。 「はっくん、もう遅いから帰るね♪」 晴信は目を見開いて、ガバッと日高の腕を掴んだ。 蒼汰のすぐ傍らで日高が尻餅をつき、晴信を見上げた。 「もうはっくん痛いじゃん!」 目を潤ませて声を上げると、蒼汰は途端に不機嫌になった。 「日高くんに怪我させないで!」 「ソレ、俺の台詞だって!」 反射的に牙を剥くと、日高は呆れた顔で二人を見た。そして、二人に手を差しだす。 「立たせて」 「…………あ、ゴメン………」 思いがけない行動に、一瞬言葉に詰まりそうになった。日高は早くと言う顔で、差しだした手をひらひら振る。 不意に、蒼汰がひょいっと掴んだ。 ソレに吊られて晴信もその手を掴むと、蒼汰の顔があからさまにその手を離せと言う空気を放った。 「蒼汰──」 日高は蒼汰の威嚇を制止させるように冷ややかに口を開くと、突如としてニコニコ笑った顔に変えた。 晴信の左足を踵で踏みつけて、ソレなのに、日高には嫉妬してないよと顔をしていた。 「日高くん、遅いからさ、僕が送っていって上げるよ」 絶対に譲らないと言う顔で晴信を睨んでその顔を一瞬で曇らかさせて、賛成しないとどうなるか解ってるよねと言う脅しを入れる。 こう言う蒼汰は晴信でも手に追えない。 よって。 「そうだね、蒼汰くんに送って貰おうか?」 「仕方ないな、はっくんがそうしろって言うならそうする」 日高は仕方なしに蒼汰の提案を呑んでいるようで、溜め息を漏らす。 変なことしようとしたら即絶交だからね!と蒼汰にぶちぶちと言って、晴信に家に着いたら連絡するねと手を振る。 だがもし、この時晴信がどうしてもついていくと言ったらならば、上月家で壮絶な修羅場が待ち受けていたことは黙っておこう。 もちろん蒼汰にとってはとても美味しい出来事だったのだが、ソレを見逃したと言うことは天は晴信を味方したようである。人生の分岐点と言うのはこう言うモノであるようだ。 そんなことはつゆ知らず、蒼汰はほくほく顔で日高を送るのだった。 日高にコレ以上嫌われたくない蒼汰は日高の言いなりで、蒼汰にコレ以上キレられたくない晴信は蒼汰の言いなりになっている。日高は晴信にぞっこんだが、わんわんと泣いた蒼汰が光佐に言いつけたらと思うと気が気でない。 いくらフラれても、晴信と付き合うことになっても、光佐は日高の神さまなのだ。 キラキラとして、ふわふわとして、手には掴めないけど、好きで好きで仕方がない。すっと落ちてくるアレは、とても心地イイのだ。 晴信は軽く攻略してもコレじゃ意味がないよな的な溜め息を漏らし、今後の傾向と対策を練るハメになる。 そして。 「さすが、智嗣さんの子だわ………」 いまは亡き蒼汰の実父の名をしみじみと口にするのだった。  

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