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親知らず 2

東城は広瀬の仕事を考慮にいれて、その日の夜遅くの時間に予約を入れてくれていた。 広瀬は仕事が終わった後で、教えられた歯科医院の住所に行った。するとそこは、たまに行く会員制宿泊施設の隣のビルだった。 東城の解説通りビルは複数階にわたって様々な専門外来が入っていた。 さらに、美容系のエステ、アロマショップ、スポーツジム、健康によさそうなカタカナの食料品店舗、最上階にはレストランがいくつか入っている。医療と健康の複合ビルといったところだ。 エントランスからエレベーターで上がった先の歯科医院は、暖かいインテリアの受付があった。 「会員証はお持ちですか?」と受付の女性に聞かれた。 広瀬は、健康保険証を出す。「会員証?」 受付女性は、会員制クラブの名称を言った。以前、宿泊施設で作らされたものだった。まさか、こんなところで必要になるとは思わなかった。 「今は持っていません。家にあります」と正直に答えた。 女性は心配しなくても大丈夫といった暖かい微笑を浮かべて、わずかに下を向き、広瀬の名前を確認している。 「広瀬様。特別のご予約のお客様ですね。承っておりました。失礼いたしました。会員証のご提示は必要ありません」 丁重におじぎをされ、奥に案内された。 暖色の壁紙の個室だ。 他の客とは顔をあわせなくてよい仕組みになっているのだろう。壁にはディスプレイがあり、きれいな風景が映っている。時間帯のせいか、都会の夜景や月が水面にうつる湖などだ。 5分と待たずにノックされ、歯科医師が入ってきた。若く頭のよさそうな先生だ。「佐竹といいます」と言い軽く頭をさげる。 それから、簡単な問診をされた。どの歯が痛むのかといった通常の歯科医の問診とそれ以外の頭痛やしびれの有無などについても聞かれる。東城が言っていたように、他の原因の場合にも対応できるようしているのだろう。 「歯のレントゲンを撮影してから、診察をします。準備をしますのでこちらで待っていてください」と言われた。 レントゲンと診察が終わると、また、個室で待たされた。 「お待たせしました」といって佐竹医師が入ってくる。彼は、壁にかかっているディスプレイを操作した。広瀬の歯の状態を、レントゲンと実際の写真で説明してくれる。 「いわゆる『親知らず』ですね。処置しますが、麻酔を使いますので、抜歯後しばらくは安静にされたほうがいいです。治療はできれば広瀬さんが時間があるときがいいのですが、いつでしたら時間がとれますか?」と言われた。 スケジュールを調整され、明後日にすることにした。 簡単にどのような方法で抜くのかや、気をつけたいことを説明された。 「今日は、痛み止めをお渡しします」 それから、何点か広瀬の歯について説明された。「とてもいい歯ですよ。手入れもきちんとされていますし、虫歯になりにくい歯です。教科書やサンプルにでてきそうなくらい歯並びがきれいです」 そして、今後、この歯を維持するために留意すべきことも言われる。 これで終わりかと思ったら、最後に、言いにくそうに佐竹が言った。 「少し、気になることがあります」

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