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親知らず 3

ディスプレイには広瀬の歯のレントゲン写真が映る。 今回の親知らずとは別な側の奥歯が拡大される。 歯茎の中、深いところになにか小さなものがあった。拡大されるが歯とはあきらかに違うものだということ以外それがなにかはわからない。 佐竹はディスプレイのその小さなものを指差す。「この物質のことはご存知ですか?」 「いえ、これ、なんですか?」 「そうですよね。私も見たことがないんです」と佐竹は言う。「広瀬さん、歯の治療跡がありませんが、ここに写っている小さい物質は、人工的な金属かなにかのようです。歯茎の表面はふさがっていて入れた痕跡もありません。もしかしたら、子供のときに入れたものかもしれません。それも、幼い頃、乳歯のときに。なにか、心当たりは?」 広瀬は否定した。 「こんなところにこういう物質が埋まっているのは初めてみました。痛みや違和感はありますか?」 「全くありません。今まで知らなかったです」 「歯のレントゲン撮られたことは?」 「覚えている限りでは、今回が初めてです」 「そうですか。今、問題がないようですので、急いでなにかしなければならないということはありませんが、気になりますね。もし、よろしければ、これが何か調べてもいいですか?私が知らないだけで、小さい子供の歯の治療で使っていた素材が残っているだけなのかもしれません。知り合いの医師にもこのレントゲンを見せていいでしょうか?心当たりがないか、聞いてみたいんです。もちろん、広瀬さんの個人情報は伝えません」 もちろんそれも拒否する理由はなかった。 佐竹は、手にしたファイルから書類を取り出す。レントゲンの画像やカルテ情報の一部を第三者に見せること、広瀬の個人情報とは決して紐付けないことが書かれている。広瀬は書類にサインをし、佐竹に渡した。 「このレントゲン写真、欲しいんですけど、可能ですか?」と広瀬は聞いた。 「もちろんです。広瀬さんのものですからね」そういうと、佐竹はプリントしたものとデータを広瀬に手渡した。 その日はそれで終わりだった。

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