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親知らず 6
広瀬は、東城にこの口の奥にある不思議な物質の話をした。
レントゲンの画像もみせた。東城は静かにその話を聞いていた。
「変な話だな」と彼は言った。そして、広瀬のあごに手をかけ、下にひいて口を開けさせようとした。
「ちょっと」と広瀬は頭を後ろに引き手を避ける。「急に何すんですか」
「その変な物質をみようと思って」
「開けても歯の奥の奥、歯茎の中だから見られません」人の話を聞いていなかったのか、この人は、と思う。
「口の中見たら何かわかるかも」
「だから、何も見られません」
「ふうん」納得していないようだ。「口の中、見せたくない理由でも?」
「は?」
「いや、仮に何も見られないなら、そんなに避けなくてもいいと思って。そういえば、お前の口の中って見たことないな。俺の親戚に口の中みられたくないって言ってたし。なにか、秘密が」そう言いながら真剣な顔をして顔を覗き込んでくる。手をまたあごにかけてきた。「この口の中に」
あきれはてていたら、単に唇を合わされた。目が笑っている。からかわれたのだ。
広瀬は彼を押しのけた。
「真面目な話をしていたんですけど」
「そうだな。悪い。お前が口の中の話ずっとしてるから、大事な話とは思ったんだけど、つい、キスしたくなって。この口の感触ってどんなんだったろうって」といけしゃしゃあという。
そして、今度は本当に真顔になった。「子供のころの歯医者のこと全く覚えてないのか?」
「はい」
「小さいころ歯医者にいって何かされたら、かなりな恐怖体験だと思う。なにか埋め込まれたんだろ。本当に小さい頃の出来事だったんだろうな。でも、そんな奥歯になにをするんだろう。小児歯科の権威も知らないっていうのも気になる」
広瀬はうなずいた。
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