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親知らず 9

そんな言葉を聞いて、広瀬の髪をなで、つむじに耳にキスを落としながら東城は思った。 小児科医がわかり、もし話が聞けるとしたら。 それが広瀬の両親の殺人事件を解決するなんらかの手がかりになるとしたら、その後はどうなっていくのだろうか。 この件は、追求すべきではないのかもしれない。 彼の語った謎の物質がなにかを、知ることが果たしていいことなのかどうか。 今ここで、広瀬を止めて、過去のことはそっとしておいた方がいいというべきなのかもしれない。 広瀬だって、東城が強く止めれば、最初は嫌がってもそのうち納得するだろう。 謎が解けることや真実が必ずしも幸福につながることはないのだということを、広瀬も自分も十分に知っているのだから。 広瀬は目を閉じて、東城の唇や、指の愛撫を心地よさそうにしている。穏やかな表情だ。 両親の悲劇は忘れられないだろうが、犯人探しや復讐にとりつかれて欲しくはない。自分の傍で、のんびりと優雅に過ごす方が、この稀有に美しい生き物にはあっているはずだ。

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