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親知らず 16
数日後、東城が仕事が終わって夜家に帰ると、先に帰っていた広瀬が、ソファーに沈み込んで珍しく週刊誌を読んでいた。ため息をついていたので雑誌を取り上げて、ローテーブルに置いた。
「おいで」と東城は言って、広瀬をたたせた。
二人で車に乗って、長い距離を走らせた。夜景がきれいなところを過ぎ、住宅地をすぎていく。
途中で助手席に座る広瀬はうとうとしていた。車の窓からちらちらと入ってくる街の灯りが、彼の寝顔を青白く見せる。
車の中は音楽もラジオもかけていない。走るときの道路からの振動だけが鳴っている。
かなり走った後で、駐車をすると、広瀬はすぐに目を開けた。
駐車場で車を降りて歩き出すと、広瀬もついてきた。彼は何も聞かず、無言だった。ここがどこかも知らないのに、来た意味は知っているようだった。
しばらく歩くと海岸が見えてくる。人はいない。夜の闇の中で波打つ海が見えた。東城は歩道から階段を降り、砂地を歩いて海に近づいた。広瀬も後から来る。
波がかからないところまで来て立ち止まった。
海岸線は、長く続いている。遠くの街灯の灯りと月しかない。ほぼ闇の中だ。
海岸沿いに二人で歩いた。広瀬が先に行き、東城は後ろから歩く。波の音しかしない。
空気は冷たく、肌を刺すようだった。手も顔もすっかり冷えて、こわばってくる。
荒涼としたその場所には、何もなかった。海は冷たく人を拒否し、波の音も優しくはなかった。
こんな場所で、東城と広瀬は二人だけだった。生き物の暖かさも、人の営みもなにもない。この地上に二人以外いないかのようだった。
そして、二人で一緒にいても、虚しさや寂しさが消えることはない。それほど簡単なことではないだろう。
ただ、二人でいたらこの寂寥に耐えることはできそうだった。そうだったらいい、と東城は思った。
長い時間かなり歩いた後で、広瀬は立ち止まった。
彼は海風を吸い込んでしまい、軽く咳をしている。寒そうだ。そういえばまだコート買っやっていなかった、と東城は思った。
手を伸ばすと、広瀬は振り返った。
わずかな時間、彼を抱きしめた。身体は冷たくなっていたが、温められるほどの長さではない。
「戻ろうか」と東城が言うと、広瀬はうなずいた。
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