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続 親知らず 5

学校を退学になってどうするつもりなんだ、という説教からはじまって、将来どうする気なんだ、という話になったのだ。 東城が「医者か金貸し以外ならなんでもかまわない」といったら、父親が激怒したらしい。 「オヤジの兄貴んちは金融系の商売してるんだよ。子供の頃から、将来は、医者か金融関係かどっちかだっていわれてて、うんざりだったんだ。だから、『あんたたちの、困ってる人につけこむような商売やるのだけはごめんだ』って答えたら、オヤジの手がとんできた」という。 「まあ、よくあるやつだ。誰のおかげでメシが食えてると思ってるんだ、ってあれだ。俺は俺で、こんな家に生まれたかったわけじゃないとか言い返す、よくあるパターンだよな。殴られたから頭にきて、俺も殴り返して。オヤジはそういうことされてびっくりしたり、良識的に手を止めたりするタイプじゃないから、お互い見境なく取っ組み合いになって」 ものすごい物音に驚いて、美音子と母親が部屋に入ったときには、部屋中ひっくりかえるような争いになっていた。 部屋にあった飾り棚のガラスも調度品もわれ、壁に穴があく。体格のいい二人の男の争いをとめることはできず、美音子は悲鳴をあげるだけだった。 東城が隙を見て馬乗りになり、父親の首に手をかけた時、小柄な母親が分け入って、なんとか二人を引きはがしたのだ。 さすがに東城もそのまま争いを続けて母親を傷つけるようなことはできなかった。 「引き剥がされた後、オヤジは俺のこと精神病院にでも閉じ込めろとか、薬使っておとなしくさせろとかなんとかいってたな。医者が言うことかよ、って今でも思う。先に手をだしたのはむこうなんだぜ」と東城はいった。 「あの時、オヤジを殺さなくてよかった、って後で美音子さんにいわれたよ。あぶないところだった。お互いな」 東城は、自分の部屋にとじこめられたが、すぐに抜け出した。 家はでて、もうもどらないつもりだったのだという。一人で生きることにしよう、とその時は決めた。

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