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続 親知らず 7
どうせ、家に帰れとか、これからどうするんだ、とか説教されるんだろうと思っていた。
日が暮れた夜の街を車は走る。東城は、見知った街並みを車の窓からずっとみていた。それは家にむかう方角ではなかった。祖父の家にも、自分の家にも。母親のいるだろう医療センターでもない。
「何をして働いているんだ」と祖父が聞いてきた。
「今日は、道路工事」と東城は答えた。
「そうか。ずいぶん日に焼けたな」と祖父は言った。「で、どこに住んでいるんだ」
「関係ないだろ」と東城は答えた。
祖父は少し笑った。「確かに」とうなずいた。「女の家にいるそうだな」
東城は返事をしなかった。知っているくせに質問してくるのが気に食わなかった。
「思ったより楽しくやってるようだな」と祖父は言った。「みんな、そのうちお前がねをあげて尻尾をまいて帰ってくると思っているようだが、全くそんなことはなさそうだな。まあ、女がいて、遊ぶ金もあって、となったら、家に戻らないのも当然だな」
「うるせえなあ」と東城は答えた。まだ、少しだけ虚勢をはっていた。
運転手が「市村様?」と声をかけてきた。
見ると、男はやせていたが、手には拳だこがあり、するどい目をしている。敵の多い祖父の運転手兼用心棒なのだろう。東城の生意気な態度をとがめましょうか、と祖父にたずねてきたのだ。
祖父は、首をよこにふった。「その必要はない。こいつは私の孫だから」と祖父は言った。
そして、祖父は、運転手に店の名前をつげた。車は銀座の方にむかった。
銀座の高級クラブでごちそうでもしてくれるのかと思って期待したら、連れて行かれたさきは銀座でもはずれにある小汚いスナックだった。
こんなとこで飲むことがあるのか、と思ったが、意外と常連のようで、年配のママが親しげにでむかえた。
「孫だ」と祖父はママに東城を紹介した。
「あら、男のお孫さんがいたの」とママはびっくりしている。「先生のところ、全員女の子だと思ってたわ」
「この子だけ別だ」と祖父は言った。
「そう。先生にあんまり似てないいい男ね」と言ってママは笑った。「そもそも人相がいいわ。素直そうで」
祖父もそういわれて笑っていた。
祖父にだされた水割りもそれほど高級なものでなく、食べ物もその辺で売ってそうな乾きものを皿にもっただけ、という感じだ。
「ここには、30年くらい前からきているんだ」と祖父はいった。「知り合いに紹介されてな。そのころはしゃれたバーでママも家具も真新しかった」
やあねえとママがいう。
「ふうん」東城は、出されたビールを飲んだ。
「去年、なくなっちゃったのよ」とママが店を紹介した祖父の知りあいのことを言う。「いい人だったわよね。ガンだったんでしょう」
祖父はうなずいた。しばらくは、祖父とママが、その亡くなった人の話をポツポツしていた。
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