7 / 59
◇
彼女は俺の前までやって来ると、長い髪を頭から抜き取る。
そこに現れたのは、艶やかな短い黒髪の、男の人……。
「えっ?」
どういうこと? なんで絃さん、男装してるの?
意味がわからず、口をぽかんと開けて阿呆面を披露していると、絃さんは薄い唇を開いた。
「俺は、本当は男なんだ。女だと思っていた?」
「えっ?」
男? 女性じゃない?
どういうこと?
頭が追い着かず、瞬きばかりを繰り返す。
ただただコクンと頷いた。
「女じゃなきゃ嫌い? 俺とは付き合えない?」
そりゃそうでしょう。本来、恋愛とは異性とするものだ。同性となんて有り得ない。
だけど、頷くことができないんだ。
だって絃さん、すっごく悲しそう。
弧を描く唇はいつも自信たっぷりで、何をしていても絵になって、綺麗で可憐で――そんな彼女が好きになったのは事実だ。
でも何故だろう。今の方がずっと人間らしい気がする。
俺はただ、目の前に突きつけられた事実に唖然としていると、絃さんの眉間に深い皺が刻まれていった。
悲しそうに微笑んでいる。
そんな泣きそうな顔をしないでほしい。
絃さんにはずっと不敵な笑みを浮かべて、笑っていてほしいんだ。
俺と視線を絡ませる絃さんの瞳が揺らいでいる。
絃さん……俺は……。
「嫌いになれたら、今、こんなに悩んでません。惚れた弱みってやつでしょうか?」
貴方が好きなんだ。
そう思うと、絃さんのことをすんなりと受け入れることができる。
長い指が伸びてくる。
くすぐったくて目を閉ざせば、俺の唇が塞がれた。
ともだちにシェアしよう!