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 彼女は俺の前までやって来ると、長い髪を頭から抜き取る。  そこに現れたのは、艶やかな短い黒髪の、男の人……。 「えっ?」  どういうこと? なんで絃さん、男装してるの?  意味がわからず、口をぽかんと開けて阿呆面を披露していると、絃さんは薄い唇を開いた。 「俺は、本当は男なんだ。女だと思っていた?」 「えっ?」  男? 女性じゃない?  どういうこと?  頭が追い着かず、瞬きばかりを繰り返す。  ただただコクンと頷いた。 「女じゃなきゃ嫌い? 俺とは付き合えない?」  そりゃそうでしょう。本来、恋愛とは異性とするものだ。同性となんて有り得ない。  だけど、頷くことができないんだ。  だって絃さん、すっごく悲しそう。  弧を描く唇はいつも自信たっぷりで、何をしていても絵になって、綺麗で可憐で――そんな彼女が好きになったのは事実だ。  でも何故だろう。今の方がずっと人間らしい気がする。  俺はただ、目の前に突きつけられた事実に唖然としていると、絃さんの眉間に深い皺が刻まれていった。  悲しそうに微笑んでいる。  そんな泣きそうな顔をしないでほしい。  絃さんにはずっと不敵な笑みを浮かべて、笑っていてほしいんだ。  俺と視線を絡ませる絃さんの瞳が揺らいでいる。  絃さん……俺は……。 「嫌いになれたら、今、こんなに悩んでません。惚れた弱みってやつでしょうか?」  貴方が好きなんだ。  そう思うと、絃さんのことをすんなりと受け入れることができる。  長い指が伸びてくる。  くすぐったくて目を閉ざせば、俺の唇が塞がれた。

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