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誘ったというよりはむしろ、誰にも絃さんを取られたくないって思ったわけで……。
だから別に俺は絃さんとこういうことをしたいと思ってホテルに入ったわけじゃない。
いや、まあ。まだ昼間だけど絃さんとそういうことをするのも嫌いじゃない。
というよりはむしろ嬉しいし、好きな人とのセックスは好きだよ。
絃さんの甘い吐息も、濡れ事の時に俺を呼ぶ掠れた声も……。
貪欲になった時の目や表情だってすごく男らしくて綺麗だし……。
って! 俺もう何考えてるんだろう。
とにかく!! 俺は今、いっぱいいっぱいだったんだよ!!
「だって!」
反論しようと顔を上げれば、絃さんの顔がすぐ傍にある。
「?」
紗がかかったような長い睫毛に縁取られた漆黒の瞳は切れ長で、すごく綺麗だ。
首を傾げたその姿さえも格好いい。
「誘ったんじゃなくて……いっぱいいっぱいで……絃さんを取られたくないし……」
勢いづけて抗議しようと口を開けば――真っ直ぐに俺を見る絃さんの視線にドキってした。
艶のある目はどことなく獲物を見るようで、心臓が身体から飛び出るんじゃないかっていうくらい、ドキドキしている。
俺は絃さんの色香に当てられたおかげで反論する最後の方は声になっていなかった。
それでもなんとか絃さんに説明しようと口を開く。
「絃さん、綺麗で。だけど俺はただの学生で、別に綺麗でも格好いいわけでもないし……だから……」
――取られたくない。
子供だって笑われると思うけど、でもそれだけ、俺は絃さんに惚れているんだ。
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