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「彼女は俺の従姉妹で名前は桃子 。今日、一緒にどうかと思って誘ったんだ。桃子、彼が話していた大学生の和歌 流星 だ」
「よろしくね。流星くんでいいかな?」
「…………」
絃さんの紹介を受けて、にっこり笑って挨拶をしてくれる桃子さん。だけど俺は今、それどころじゃない。
だって俺はてっきり、絃さんと二人きりでデートだと思っていたんだ。
それなのにどうして知らない女性がいるの?
どうしてこの人と一緒に花鳥園をまわらなきゃいけないの?
「あの、絃さん……」
絃さんの袖を引っ張って聞こうとしたら、
「なんだ?」
「な、んでも……」
ダメだ。聞けない。この女性に気があるって言われたら、俺。立ち直れない。
でもでも、桃子さんは絃さんと従姉妹だって言っていたよね?
これってどういうこと?
よくわからない。
臆病者の俺は、理由も訊けるはずがなくて、なんでもないと首を振るしかなかった。
だけどおかしい。
てっきり絃さんは桃子さんと花鳥園をまわるのかと思ったのに違うんだ。
疲れたとか水を飲みにだとか、絃さんは事ある毎に抜けるんだ。
おかげで俺は今日初めて顔を合わせた桃子さんと二人きりになってしまうわけで……。
「ごめんね、なんか急にこういうことになって。迷惑だったよね」
色とりどりのチューリップが辺り一面に咲いている。
桃子さんと一緒にチューリップの中を歩いていた俺に、彼女は申し訳なさそうに謝ってきた。
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