28 / 59
◇
「いえ! そんなことないです」
迷惑じゃないと言えば嘘になる。だけど彼女は絃さんの従姉妹で、それに悪気があってこの花鳥園に来たわけでもないだろうから本音なんて言えない。
それどころか、謝られると余計に居づらくなってしまう。
だって俺は、絃さんと二人きりでデートがしたいって、邪な気持ちを抱いているのだから。
だけど桃子さんは絃さんと俺が付き合っていることを知らない。同性の恋人なんてどう考えてもおかしいもんな。
俺たちの関係はいびつだ。
でも、それでも俺は絃さんが好きだし、離れたくない。
「…………」
俺は何も言えなくなって綺麗に咲いている赤色のチューリップを見つめて押し黙った。
そうしたら、桃子さんは突然、俺の核心を突いてきたんだ。
「でも浮かない顔してる。やっぱり初対面のわたしより絃とまわりたいよね。もともとそういうことで流星くんは遊びに来たんでしょう? ねぇ、好き?」
「っへ?」
「絃のこと」
「な、なんでっ」
桃子さんに訊かれた俺は、もう心臓がバクバクいってる。
俺が絃さんを好きって知られてる?
絃さん、もしかして俺と付き合っていることを彼女に話したのだろうか。
でも、もしそうじゃなかったら……。俺は墓穴を掘ることになる。そうなれば困るのは絃さんだ。
なにせ彼女と絃さんは親戚同士で縁が深い。そんな彼女に俺との仲を知られるのはかなりマズいんじゃないかな。
……こういう時に限って絃さんは、『一服してくる』って煙草を吸いに喫煙室に行ったきり戻ってこないし……。
ともだちにシェアしよう!