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「なにをしているんだ。ダメだろう彼女を一人にしちゃ……」  絃さんは、手にしていた煙草を灰皿で潰しながら大きなため息をついた。 「…………」  なんだか絃さんが他人みたいに見える。  恋人でしょう?  どうして桃子さんの心配をするの?  たしかに彼女は女性だし、守ってあげなきゃいけないのはわかる。でも彼女を連れて来たのは絃さんで、俺の意志じゃない。  それってそれって、俺を桃子さんに押しつけたっていうことだよね。 「どうして桃子さんを紹介したの? 俺、ウザくなった? しんどい? 迷惑かけないようにするから! ……だから……」   「お前は、綺麗な女性が好きなだけだ。別に俺じゃなくてもいいだろう?」 「なに、それ……俺はっ!!」  絃さん、それは本気で言っているの?  ひんやり、ギスギスした空気が俺と絃さんの間に流れる。  胸が痛い。  どうしよう、泣きそうだ。 「いた、二人とも。もう、探したのよ?」  重苦しい沈黙が続く。  だけどそれは長く続かなかった。  桃子さんの声が沈黙を破ったんだ。 「桃子さん……ごめんなさい。俺、好きな人がいるんです。その人は俺よりもずっと大人で、背が高くて格好良くて。時々意地悪だけど優しくて……俺、絃さんが好きなんです。だから……」 「馬鹿かお前! 何言って」 「馬鹿でいいです。それくらい、絃さんが好きだから……。そりゃ、初めは一目惚れでした。女装している絃さんを本当の女性だと思い込んで。すごく綺麗で声を掛けられて嬉しかった」

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