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 いつもならすぐに移動できる玄関も、今の俺には荷が重すぎる。  目的地までやっとのことで到着すると、玄関のドアを開けた。  ピンポーン。  チャイムがまた鳴る。  もうわかったから煩いよ。  胸の中で毒づきながら、ドアを開けると……。 「いとさん?」  俺は自分の目を疑った。  だってそこには、黒の長袖シャツに茶色のデニム姿の絃さんがいたんだ。 「顔が赤いな。メールの文面がおかしかったから来てみればやっぱりか」  絃さんは俺を見るなり眉間に皺を寄せた。  絃さん?  夢じゃなくて本物の絃さん? 「いとさあああん」  俺は絃さんに抱きつくと、絃さんは、「はいはい」と背中を撫でてくれる。  うう、母さんよりもずっと優しい。 「流星、上がるぞ?」 「お前の部屋は二階か?」  絃さんはそう言うと俺を横抱きにして運んでくれる。  俺は嬉しくて、絃さんの胸に頬を擦り寄せながらコクンと頷いてみせた。  間もなくして俺の部屋に辿り着いた絃さんは、ベッドにゆっくり下ろしてくれる。  だけど絃さんと離れたくなんてない。  今まで会いたいのにガマンして、ずっと離れていたんだ。 「絃さん、ヤだっ!!」  俺は絃さんの首に腕を巻きつけて駄々をこねた。 「お前……風邪を引くと随分と甘えん坊になるな……」 「いや? 絃さんは俺と会いたくないの?」  もしかして、ここへ来たのも俺が心配だからじゃなくって、お別れのためだったのかな。  絃さんの心には、もう俺はいないの?  悲しくて、胸が苦しくて……視界が涙で歪む。

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