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「そうじゃない。馬鹿かお前は……そう思っていたら俺はここにいないだろうが……まあ、病人に説明したところで何もわからないだろうがな……」  絃さん、ため息をついたんだ。  面倒くさそうに、ふうううって……。  なんで? そんなに俺が面倒臭い?  たしかにね、俺って絃さんよりずっと年下だし同性だし。  俺は格好良くもないし綺麗じゃない。どう考えたって絃さんとは釣り合わない。  だけど俺は……俺はっ!! 「ふううって、イヤだ! 俺、絃さんと別れないからっ!!」  別れたくない!!  俺は頑なに首を振ったら、 「だから何故そうなる?」  眉間にいっそうの深い皺が刻まれたんだ。 「うえええっ、絃さんが怒ったああっ!!」  好きな人を怒らせて、俺。何やってるんだろう。  こんなに好きなのは俺だけなのかな。  もう絃さんは俺の事、どうでもいいのかもしれない。  涙は堰を切って溢れ出す。 「だあああっ! もう、静かにしろ」 「んぅうううっ!」  大声で泣きじゃくっていると、絃さんは俺の口を塞いだんだ。  だけど俺、風邪ひいてる。  キスは嬉しいけれど、今はダメだ。  絃さんに苦しい思いをさせたくない!! 「絃さ、風邪……うつっちゃう」  胸板を押して、必死に身体を離せば、俺はこてんとその肩に頭を乗せた。 「おかしなところで冷静だな、ほんと」  絃さんはクツクツ笑う。  その笑い声がとてもあたたかい。  ーーそれだけじゃない。俺の背中を撫でてくれている。 「い、とさ……」  優しくて、また泣けてくる。

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