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おかげで、俺がさっきまで泣いていた理由とか、話していた内容さえも忘れてしまった。
「いとさ……」
心臓がドキドキするのは風邪のせいばかりじゃない。
大好きな人が傍にいるからだ。
嬉しい。
絃さんが笑ってくれるのが単純に嬉しい。
「今、家には流星の一人か?」
絃さんが訊ねる。
コクン。
俺は静かに頷いてみせた。
「風邪薬は飲んだのか?」
絃さんは自由に動けない俺を気遣って、色々世話を焼いてくれる。
絃さんは、ベッドの脇に置いてあるお盆の上に薬の入った白い袋と水が入ったコップを見ていた。
「……まだ」
「飯は?」
「食べた」
「なら薬を飲め」
「ヤだ」
絃さんからの質問に、正直に答えていく俺。
薬は嫌い。
自分から進んで飲みたくない。
首を振ればーー。
「何故だ?」
絃さんがまた訊ねてくる。
「…………」
「…………」
しばらく沈黙が続く。
どうやら俺が答えるまで絃さんは話す気はないらしい。
俺は口をツンと尖らせて、本音を口に滑らせた。
「……苦い」
「どこの子供だよお前は」
「ヤだヤだ苦いのはイヤですっ!」
薬なんて飲まなくても治るし、今までだってそうして来た。
それなのに、母さんってば律儀で、俺が飲まないのを知っていて、こうして処方された薬を置くんだ。
それを見た絃さんがどう出るかくらいわかる。
だけどいくら絃さんの頼みでも聞けることと聞けないことがある。
薬だけは絶対に飲みたくない!!
俺は首を振って拒絶すると、絃さんは背中をポンポンと叩いた。
「あ~、はいはい。わかった、わかった」
あ、よかった。
わかってくれた。
ほっと安心して身体から力を抜く。
絃さんを見上げればーー。
えっと?
俺は目の前の光景に首を傾げた。
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