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◇
だって絃さん、俺に処方された薬をひとつ取り出すと、粉薬を口の中に放り込み、水を含む。
「…………」
どうして絃さんが飲むのかな?
状況を飲み込めない俺は、絃さんを呆然と見つめていると、顎を固定されてしまった。
「んぅ……」
またもや絃さんの唇が俺の口を塞いだんだ。
びっくりして口を開くと、粉薬の苦みと一緒に水が口内に入り込んでくる。
「んぅうううっ!!」
顎を固定されているから吐き出すこともできなくて、そのまま喉の奥に押しやられ、飲んでしまった。
「っつ!!」
にっが!!
「飲めたか?」
「……苦い」
満足げな絃さんに、俺は涙目で睨めば、頭を撫でる。
「よしよし、良い子だな」
俺を撫でる骨張った大きな手が心地好い。
たったそれだけのことで、無理矢理大嫌いな薬を飲まされたことなんてどうでも良くなる。
俺、本当に絃さんが好きなんだ。
両腕を、けっして華奢じゃないけれど筋肉質でもないその身体に回す。
俺は頬を擦り寄せて甘えた。
「俺、絃さんが好き……」
「ああ、知ってる」
絃さんとは同性だけど、ほんとに本当に好きなんだ。
甘えると、ずっと抱きしめてくれる。
俺、きっと都合の良い夢を見ているんじゃないかな。
それでもいい。
「しかし珍しいな。お前がこうも甘えてくるなんて。なるほど、人間、風邪をひくと気弱になるとは聞くが、流星の場合は甘えたになるのか……」
絃さんはなんて言ったんだろう。
静かな空間の中、そっと呟いた。
「絃さん?」
薬が効いてきたのかな。
頭がぼーっとして、絃さんの言葉が理解できない。
顔を上げると、
「いや、可愛いと思っただけだ。気にするな」
にっこり笑う絃さんの顔があった。
その日、俺が寝付くまで絃さんに抱きしめて貰ったんだ。
**END**
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