38 / 59

 だって絃さん、俺に処方された薬をひとつ取り出すと、粉薬を口の中に放り込み、水を含む。 「…………」  どうして絃さんが飲むのかな?  状況を飲み込めない俺は、絃さんを呆然と見つめていると、顎を固定されてしまった。 「んぅ……」  またもや絃さんの唇が俺の口を塞いだんだ。  びっくりして口を開くと、粉薬の苦みと一緒に水が口内に入り込んでくる。 「んぅうううっ!!」  顎を固定されているから吐き出すこともできなくて、そのまま喉の奥に押しやられ、飲んでしまった。 「っつ!!」  にっが!! 「飲めたか?」 「……苦い」  満足げな絃さんに、俺は涙目で睨めば、頭を撫でる。 「よしよし、良い子だな」  俺を撫でる骨張った大きな手が心地好い。  たったそれだけのことで、無理矢理大嫌いな薬を飲まされたことなんてどうでも良くなる。  俺、本当に絃さんが好きなんだ。  両腕を、けっして華奢じゃないけれど筋肉質でもないその身体に回す。  俺は頬を擦り寄せて甘えた。 「俺、絃さんが好き……」 「ああ、知ってる」  絃さんとは同性だけど、ほんとに本当に好きなんだ。  甘えると、ずっと抱きしめてくれる。  俺、きっと都合の良い夢を見ているんじゃないかな。  それでもいい。 「しかし珍しいな。お前がこうも甘えてくるなんて。なるほど、人間、風邪をひくと気弱になるとは聞くが、流星の場合は甘えたになるのか……」  絃さんはなんて言ったんだろう。  静かな空間の中、そっと呟いた。 「絃さん?」  薬が効いてきたのかな。  頭がぼーっとして、絃さんの言葉が理解できない。  顔を上げると、 「いや、可愛いと思っただけだ。気にするな」  にっこり笑う絃さんの顔があった。  その日、俺が寝付くまで絃さんに抱きしめて貰ったんだ。  **END**

ともだちにシェアしよう!