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target2-1.少年との出逢い

――月杜学園 「…此処か……」 門の前で黒髪で長身の男が立ち止まった。 服装は白いシャツに黒いパンツというシンプルなもので、その立ち姿はまるでモデルのように清廉されていた。 立ち止まっているのは、予め来る事を知らせてあったのに門が閉まっているからだ。 門の高さは5メートル弱。 普通の人間では越えられないだろう。 普通の人間だったら、だが。 目測で計って数歩後ろに下がり勢いよく走り出すと、門の手前で地面を蹴る。 すると、軽々と跳躍した身体が羽のように宙に飛んだ。 屈んだ姿勢で門の向こう側へ着地し、スッと立ち上がると遠く後ろの門に目を向ける。 「(…助走つける必要無かったな)」 そしてすぐに前を向き、目的の場所へ歩き出した。 しかし、進めど進めど目的地は見えず木が茂る森が続いている。 それでも方角は合っているのだから、その内辿り着けるだろうと進んで行く。 暫く歩いてから、どこからか人の気配を感じて立ち止まる。 神経を研ぎ澄ますと、僅かに何か聞こえる。 「――!…―――!!」 常人は気付かない程微かな気配は、しかしこの男には感じられる。 「(4人…か)」 悲鳴にも似た叫び声が助けを求めているようで、迷わずその方向に進路を変えた。 感じる気配と声は着実に近付き、自然と早足になっていく。 そして奥の茂みからガサガサと音が立ち、隙間から木に抑えつけている男と、少女のような少年が抑えつけられている姿が見えた。 「んー!や、め…離し……!!」 青い髪の少年は怯えた目で制止を訴えるが、男達の笑みが深まっただけだった。 服に手を掛けられ、もうだめだと恐怖感で目を瞑った。 「男が男に何してんだよ」 「っ!……え…?」 嫌悪感を孕んだ第三者の声がして、驚きに目を見開いた。 男達も手を止めて振り返る。 制服姿ではない容姿端麗の男が、思いっきり顔を顰めてこちらを見ている。 「誰だぁ…?いや…それよりも……」 「こいつ、やべぇくらい良いニオイするぜ……!」 「あぁ、こいつをヤっちまおう」 もっといい獲物を見つけ興奮した男達が、じわじわとにじり寄っていく。 飢えた獣達の新たな標的となってしまったのだが、男は焦るでもなくただ呆れて溜め息を吐いた。 「悪趣味も大概にしろよな…それに」 「!?」 いつの間にか背後に回り、首に衝撃波のような手刀を食らわせた。 男は意識を失いその場に倒れる。 「テメェー!!」 「いつの間に!?」 仲間が一瞬で倒され吠える男達に不敵な笑みを浮かべ、人差し指で挑発する。 「やられるのは、お前らの方だ」 挑発された男達は一気に沸き立ち、両方向から一気に襲い掛かった。 「(単純な奴ら……)」 目を細めると、攻撃を避けながら男の腹部に回し蹴りを繰り出し、飛ばされた男が地面に転がる。 攻撃の速さに目を見開く男の正面に回り込み鳩尾を殴ると、嗚咽を漏らし倒れた。 「(つ、強い……それに、格好いい…)」 少年はまるで映画のワンシーンのような様になる光景に見惚れ、助かった事実も相まって呆然としていた。 「おい…立てるか?」 「……え?…あ、はい!」 声を掛けられハッとなる。 見惚れていた姿が至近距離にあって顔を真っ赤にした少年は、差し出された手に気付かずに勢いよく立ち上がろうとした。 しかし、脚がカクンとなってその場に座り込む。 襲われた恐怖感がまだ収まっていないのだろう。 「ったく…無理すんなよ」 落ちていたブレザーを少年の肩に掛ける。 その口調とは裏腹に、声には優しさがあった。 そして、ごく自然な仕草で少年を横抱きにして立ち上がった。 「え!?あ、あの……!」 また顔を真っ赤にした少年が男の顔を見上げる。 それを見た男は、笑った。 「ふっ…トマトみてぇ」 「ト、トマトって何ですか!?僕はトマトじゃありません!」 「耳まで真っ赤じゃねぇか」 「そ、それはあなたが……!!」 言いかけた少年は途中で口を噤んだ。 少年を担ぎ直し、男は再び目的の場所へと歩き出す。 「俺が何だって?」 「べ、別に!?何も言ってないですっ」 「へぇ?じゃあ何で赤くなってんだ?」 「そ、それは……っ!!」 平然と、しかしどこか楽しそうに聞き返してくる男に、少年は終始赤面しっぱなしだがなかなか口に出そうとしない。 すると、いきなり立ち止まった。 「言わないと、落とすぞ」 「……脅しですか!?卑怯ですよ!」 「あーそりゃどうも」 「褒めてないですぅ―――!!」 しばらく言い争いが続き、少年は躍起になって叫んだ。 「で、俺が何?」 逃げられない。 少年は思った。遊ばれている感じにヤケになればなるほど、この男のペースにハマっていく気がした。 漸く観念し、口をパクパクさせながらなんとか言う。 「あ、あなたがっ………格好いいから」 後半は聞こえるか聞こえないかの小さな声だった。 恥ずかしくて、真っ赤になっている顔を見せられなくて顔を逸らした。 沈黙が羞恥を高める。 何か言ってほしい。もう何でもいいから。と少年は思った。 「お前はそうしてた方がいいな」 「……え?」 てっきりからかわれるかと思っていた少年は顔を上げた。 男は何も言わず微笑むと、また歩き出した。 …もしかして、また助けられた? 恐怖感を晴らそうとわざとからかって。 だとしたら。 なんて見越した事をする人なんだろう。 「……ありがとう」 一度も言っていなかった言葉を言った。 「別に…ただのお節介だ」 男は悪戯に笑った。 あぁ、どうして。 心臓がうるさい音を立てているんだろう。 あぁ、どうして。 いつもより身体が熱くて仕方ないんだろう。 気づかれないように胸板に顔を寄せ、そっと寄りかかった。 普段言わない事を言ってしまうのも、取らない行動をとってしまうのも。 きっと、この熱のせいだ。 男の笑顔がヤケに頭から焼き付いて離れない。 どうして、なんだろう。 (少年が気持ちに気づくのは)(また遠くない未来の話)

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