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target2-2.一悶着

やっと辿り着いた入り口の脇には小さな警備施設があり、中には30代位の見た目強面の男が座っていた。 横抱きにされた少年と、長身のスタイルのいい男を見る。 「へぇ…王子様とお姫様か?」 「違ぇよ」「違いますッ!」 鋭い突っ込みが同時に落とされる。 「この人とはさっき会ったばっかりですっ!」 「そうは見えないな…お前がヤケになるとは、大分打ち解けているように見えるが」 付け加えるように少年は叫ぶが、言われた事が当たっていて口を閉じた。 頃合いを見て男は口を開く。 「俺は五十嵐 颯都(イガラシ ハヤト)です。明日から此処に編入する事になってます」 あぁ、聞いている…、と警備員は言う。 「俺は藤堂 桐臥(フジドウ トウガ)。七年前からここの警備を勤めている。 外出時には、俺に行き先と戻り時間言ってから出るといい。 あと、敬語は必要ない」 分かった、と颯都は少し笑って頷く。 「ところで、藤堂さんは何でこんな所で働いてるんだ?一般人、だろ」 「勿論、普通の人間さ。 ここの理事長とは古い知り合いで、どうしてもと頼まれてな。 俺以上に腕の立つ人間はいないらしい」 「へぇ…、其れはいつか手合わせしてぇな」 好戦的な眼で笑うと、表情を弛ませて桐臥も笑った。 「あぁ、いつでも来るといい」 そして放置されていた少年が、ふるふると震え出した。 「いい加減降ろしてぇえ―――――っ!!」 羞恥に頬を染めて叫ぶ。 「あ、悪ぃ」 颯都は忘れてた、という表情で少年を降ろした。 「……今、僕の事忘れてましたね?」 「あぁ」 じろりと睨んで言う少年にケロっと白状する颯都。 少年はまた叫んだ。 「正直に言うなああぁ―――っ!!」 「(なるほど、いいコンビだ)」 桐臥は様子を見守りながら思った。 すると奥の方から靴音が近付き、眼鏡できっちりと制服を着た男が現れた。 いかにも不機嫌で眉間に皺が寄っている。 「五十嵐 颯都。 来ないと思ったら…こんな所で一体何をしているんですか?」 神経質に眼鏡の縁をクイっと上げる。 「あ?…誰だ、お前」 「私は生徒会副会長の漆原 京弥(ウルシバラ キョウヤ)です。 随分道草を食っていたようですが、私は生憎とても忙しいのです。 貴方が理事長の親戚だから時間を割いて待っていましたが、門のインターホンをなぜ押して来なかったのですか?」 引きつった笑顔を浮かべ、長文を一息で言い切る。 「え?門を開けてもらって入って来なかったんですか?じゃあ、どうやって…」 「飛び越えて来た」 「えぇっ!?」 首を傾げる少年に、あたかも普通のように言う。 「そうですか。ではなぜこんなに遅くなったのか説明してください」 京弥の尋問は続き、少年ははっとした。 それは自分の所為だと。 「ぼ、僕が……!」 前に出ようとする少年を片手で制す。 「悪い。迷ってたんだ。 大分時間をロスしちまって困ってた所を、通りかかった此奴に道案内して貰ったんだ」 全然違う。 僕が、助けてもらったのに。 自分より大きく見える背中を目にしながら少年は腑に落ちなかった。 「…そうですか。貴方も災難でしたね」 「ちが「あぁ、本当に迷惑掛けたな」……!?」 否定しようとしたが被せられるように言われて愕然とした。 どうして、この人は。 「…では、着いて来て下さい。寮を案内します」 京弥は颯都を冷たい目で一瞥すると、寮の中へ歩いて行く。 それに続こうとする颯都に、少年は言った。 「どうして」 「あ?」 「どうして、庇ったりしたんですか?僕が…僕の所為で遅くなったって言えば、副会長も……」 弱々しい声に、颯都はしっかり目を向き合わせると言った。 「俺が嫌だったからだ」 「え…?」 「俺がお前の立場だったら、男に襲われたなんて絶対思われたくない。 其れを人に言われるなんて以ての他だからな。 只のお節介だと思えば良い。だから、一々気にすんな」 真剣な表情で言ってから、少年の髪をくしゃっと一撫ですると京弥の後に続いた。 「そんなの、ズルいですよ……あなただけが嫌な思いをして、僕はしないんて……ズルいです」 肩に掛けられたブレザーを触ると、まだ温度が残っているような気がした。 優しい温度に、また甘えた。 ズルいのは、僕だ。 大きな彼とは対照的に、自分の存在を酷くちっぽけに感じて唇を噛む。 「お前が守ってやればいいんじゃないか」 後ろから声が掛かって、ハッとなって振り向いた。 そこには、一部始終を見ていたであろう警備員の桐臥。 「あいつは……きっと色々なモノを背負い込み過ぎている。 そうする事に慣れてしまっているんだ。だから…当たり前にお前を庇った」 静かに話す桐臥の話を聞いて、少年は首を振った。 「無理ですよ……彼は僕より格段に強いんだ。 守る隙なんて、見せてくれない」 戦った時も。 庇った時も。 震えている僕なんかより、肉体的にも精神的にも強い。 「……本当に、そうか?」 「え…?」 心の声に呼応するように聞こえた声に疑問符を浮かべる。 「………いや……、何でもない。 部外者が立ち入った事を聞いて済まなかったな」 長い沈黙の後、返ってきたのは答えではなかった。 「…いえ……」 少年は首を振って、寮へ歩き出した。 (案外近い所に、答えはあるもんだ) (頑張れよ……、少年)

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