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target2-4.歓迎
「理事長ー?男連れ込んで、何ヤってるんスかァー?」
突如、脳天気な声が二人に降りかかる。
「オレを呼び出しといて堂々とヤるなんて、勘弁したってくださいよォ!
オレもヒマやないっていうか、もっとイチャコラしたいんですよォ~」
金髪には緩いパーマが掛かり、後ろ髪を少し残して一本で揺ってある。
話し方は標準語ではなく、どことなく関西のイントネーションがある。
低身長で薄茶の大きめカーディガン。
制服を着てはいるがネクタイは緩み、ベルトはしているが腰ほどに下がったパンツがまさに下半身の緩さを醸し出している。
「てか、その組み敷いてるやつ誰ですかー?
もしよかったら、3Pとかどうっスかぁ?」
思わず呆然としていたが、その言葉で正気に戻った。
「はぁ!?別にそんな関係じゃねぇよッ!」
押し倒された体制の颯都が、和泉の顔を押し退けた。
和泉は若干ズレた眼鏡を手で直しながら、颯都の上から退いて立ち上がった。
「そ、そうだよ!この子は僕の遠い親戚で、五十嵐 颯都くんっ!
ほらっ、今日案内を頼んだ編入生だよ!」
「そういう事だ」
無駄に慌てていう和泉とは対照的に、立ち上がった颯都は冷静だった。
そこで初めて、桃色の眼が颯都を認識し、キラリと光る。
「っわ……テライッッケメ――ン!!
ヤバいめっちゃタイプや!!
君名前は!?寮は!?クラスどこ!?」
テンション高々と叫ぶと、興奮した様子で颯都の肩を掴む。
「は?…タイプって、何だ?」
颯都はポカンとしたまま眉をしかめる。
「しかも天然かいな!ヤバいわ~!オレ、ドツボやわ~!」
周りに花が咲き一人ハイテンショントークに磨きが掛かる。
和泉はしまった、と顔を手で覆った。
颯都を会わせたらこうなりそうな事は予想がついていたはずなのに、自分も舞い上がっていてそこまで考えていなかった。
しかしもう取り返しはつかない。
和泉は笑顔が引きつるのを感じながら、理事長らしく紹介をする事にした。
「颯都……この彼がさっき言っていた寮長の、」
「佐伯 咲良(サイキ サクラ)やっ!
よろしゅうな、颯都!」
台詞を遮り、ニッと八重歯を見せる笑顔で手を差し出す咲良。
よく分からないが、初めて同年代の生徒に歓迎され嬉しかったので、颯都は手を握り返した。
「五十嵐颯都だ。宜しくな」
そしてとりあえず笑ってみた。
「うっは――!!めっちゃカッコかわえぇええっ!!」
「っ!?」
その笑顔を見た咲良は桃色の眼を輝かせ、颯都に抱きついた。
身長は低いので、高身長の颯都とはかなり凸凹感がある。
「(…スキンシップの多い奴だな)」
颯都は抱き締められながらも冷静に、ただのスキンシップだと考えた。
「抱き心地もえぇし~、なにこのめっちゃえぇニオイ!!
なぁ~理事長~!
オレが颯都もらってえぇよな!?理事長聞いとるかぁ~!?」
尻尾を振りそうな勢いで言うが、和泉の返事は返って来なかった。
「まぁいいわ!颯都、今オレの部屋に連れてったる!
そこで色々教えたるわ!学園のこととか…いろいろ、な」
腕を引き、にこやかに笑った後に含み笑いする。
その意味に気づかずに、颯都はあっさりと承諾した。
「おぅ、頼んだぜ」
「僕の可愛い颯都に……手出しするのは許さ―――んッ!!!」
やり取りを見て後ろでメラメラと炎を燃やしていた和泉が、二人の間に割って入る。
「誰に手を出そうと、颯都だけはダメだから!!」
「え~~~っ!!何でやのォ~?」
「咲良クン、これは契約だよ。もし手を出したらこれからブラッドは支給しないから」
「う~わ、卑怯やァ!そんなの困るに決まっとるやーん!
けど颯都も欲しいんや~!!」
「(待ってる間、紅茶でも飲むか……)」
二人のよく解らない言い争いには関与しない事にした颯都は、理事長室の中を見回しティーポットと様々な紅茶や珈琲があるのに気づき、アールグレイを入れるとソファに座って優雅にティータイムを楽しんでいた。
そして飲み終わった頃に、ちょうど言い争いは終結したようで飲み終わったカップを食器洗いの場に伏せて置き、二人の所に戻った。
「お疲れさん」
ポン、と肩に手を置く。
振り返った二人の顔は、先程よりやつれていた。
「颯都…、気をつけるんだよ。
ここには野生の狼が大勢生息していて、隙あらば襲おうとしてくるから」
「(野生の狼…?んなモン一匹も居なかったよな…居たら気配で気づくはずだが)
あぁ…分かった」
意味を履き違えていると気づかずに颯都は頷く。
「颯都ォ……これから部屋に案内したったるから、はぐれんように着いて来たって」
「あ、あぁ…」
最初の頃よりかなりテンションダウンした咲良がフラフラと前を歩いていく。
後に続こうとして、颯都はドアの前であのさ、と和泉を少し振り返る。
「和泉さん…有難な。
甘えさせてくれて……その、嬉しかった…。
また気が向いたら、此処に来るから…その時は、ゆっくり紅茶飲もうな」
最後に照れ笑いし、じゃあまた、と部屋から出て行った。
残された和泉は、ふらっと身体を揺らめかせる。
丸眼鏡がキラリと光った。
「ツンデレktkr(キタコレ)――――ッッ!!!!」
大量の鼻血を出しながらも、風船のように飛んだ和泉のHP・並びにMPは一瞬で回復を遂げた。
血をダラダラ垂らしながら、引き出しから"萌え日記"と書かれたピンク色のノートが取り出される。
「はぁ、はぁっ…ヤバいよコレは!
僕の萌え日記(颯都専用)にまた新たなる1ページがッ!!」
部屋が和泉の血で染まったのは、言うまでもない。
(変わらない君にまた会えた)
(嬉しくて、嬉しくて仕方がないんだ)
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